だから、待て! 3

part 2 「光の剣」

春、麗らかな日差し、そして、真っ暗なオレ。
学校の近くまで来て、イヤな頭痛がした。なんか、慌ただしい。
ヒソヒソと学校のあちこちで生徒達が噂話をしている。
「なんか、あったのか?」
クラスの女に聞いてみた。ああ、聞かなくても、なんかイヤ~な気がする。
「昨日、一年の女の子が交通事故で死んじゃったんだってー!」
ああ!あかん!絶対、昨日の女だ!
どんな風に車に跳ねられたかまだ言おうとしている女の腕を思わず掴んで、立ち上がってしまったよ。
「オマエ、鷹東・・・・えっと、女みたいな顔した、鷹東って知ってるか?」
「いった~い、離してよっ!鷹東先輩知らないの?」
不服そうな顔している女は、オレを睨み付ける。

「何年、何組にいるんだよ!」
オレの勢いに押され気味の女は、捕まれた右腕を振り払い、上目遣いに睨みながら、小声で喋ってくれた。
こんな時でも、その上目遣いがちょっと可愛いな、なんて思ってしまうオレも、オレなんだ・・・・。
「3年、B組よ。」
可愛い顔に、ちょっとぐらつきながらも、鷹東に叱咤しながら、教室を出た。
とりあえず、鷹東・・・、えーっと、鷹東瑞樹だ!
HRの始まる寸前、3年の教室に飛び込んだ。
「鷹東瑞樹ぃ!」
見たこともない下級生が飛び込んで来た事に、クラス中の視線が痛いほど突き刺さる。
「瑞樹は、今日まだ、来ていないけど?」
後ろから声をかけられて、振り向くと笑いを堪えたような顔した上級生のお姉さんが立っていた。「今日、来ていない・・・って?」戸惑うオレに一歩近づき、ブラウスから谷間が見えるほど挑戦的に、迫ってくる。「瑞樹の・・・、何なの?可愛いわね、2年の坊や。」
ここまで来て、やっと、からかわれている事態に気がついた!
「瑞樹の恋人です!」
次の瞬間、悲鳴と笑いの渦だ。どうだ、参ったか!女ども!
ああ、この時、オレにもうちょっとの配慮っていうもんが、あれば・・・・、後悔してもあとの祭りだ。
瑞樹に、どんな噂が飛び交っているか、その時のオレには知る由もなかったんだから。
鷹東瑞樹の一人で住んでいるというマンションを教えて貰い、「頑張ってね。」なんていう言葉まで貰い、挙げ句の果てには校庭を突っ切るオレに、教室の窓から鈴なりで手を振ってくれる始末だった。
でも、オレは一目散にそのマンションにたどり着こうとしていた。
瑞樹の身が、心配だった。
例えようもない、不安な気持ちがこみ上げていた。

学校からさほど遠くない場所にある、マンションを見つけた。オレの家からは反対方向とはいえ、地元の人間なら誰でも知っている新しいオートロック付きのマンションだった。
「こんな所に、独りで住んでいるって、どこのボンボンなんだよつ、チョーむかつく!」
悪態をつきながらも、オートロックの暗証番号というか、部屋の番号を入力した。
案外、簡単に中に入れるものだ。
マンションの2階、「205号、ここだ!」
チャイムを鳴らしても出てこない。部屋には誰かいる気配だ。
あの、厚ぼったい湿った空気は、感じられないけど、イヤな感じがしてしょうがなかつた。「ああ、オレは、なんでこんな事、してんだろ。あんなヤツの為に。」必死にドアを叩く手に力が無くなっていく瞬間に、重いドアが、独りでにカチャッと開いた。
ビクッとしながら、そっとドアノブを回す。
薄暗い部屋は、ぞっとする位に冷え切っていた。
「おい、瑞樹・・・・、居るのか?」
カタカタと、小さく何かがぶつかり合う音がする。
確かに、誰かがいる気配を感じていた。まだ冬服の制服を着ているというのに、肌を刺すような寒さが、部屋の雰囲気が尋常でない教えているようだった。
「瑞樹!返事しろ!」
オレが声を上げた次の瞬間、隣の部屋が発光したかのように光った。
目映い光の中、瑞樹にまたがる女の霊が見えた。
確かに、昨日見た女に似ているけど、もはやそいつは人間ではなく、邪念に取り憑かれた悪霊でしかなかった。
首が180度、奇妙な角度に曲がりながら、そいつはオレを見た。背筋がゾッとする、なんて言うようなもんじゃねえ。
口は、開かない。声が頭の中に直接聞こえてくる。
「・・・・・、あんたよ、・・・あんたのせいで、・・・・あんたが急に出てこなければ、・・・ア、ア、・・アタシは走り出したりしなかった。・・・
・・・・、そしたら、・・・こんな姿になんなかった・・・。」
「しょーがねーだろ!オレのせいじゃねーよ!」
女が、くわっと大きな口を開いた。眼孔が溶けそうになっている。見られたもんじゃねえ。どんな可愛い子でも、これじゃあ、たまんねーよ!
「・・・・・くやしい、くやしい・・・・、ミズキ・・・が、ホシイ・・・・。」
ベットに横たわる瑞樹の上にまたがり、白い腕を伸ばそうとている。
「やめろーーーっ!瑞樹を連れて行くなぁ!」
声を張り上げているつもりでも、声は喉に張り付き、身体すら、動かなくなっている。
瑞樹は、まるで眠っているかのように、その顔に苦痛の色は見えなかった。
枕に流れる茶色の髪の毛が頬にかかり、まるで軽い寝息が聞こえて聞こえてきそうな程に。なんなんだ!こいつは!圧力は感じないのか?
女の白い指が、瑞樹の長い首にたどり着く。
オレは、無意識のうちに、念を両の手の間へと溜め込み、女へとぶつけた。
「起きろーっ、瑞樹ーーーーー!」
オレの放った光の念は、初めてやったにしては、見事に女へと命中した。
ドゥンと、部屋中に響き渡るその重力に、オレも、瑞樹も跳ね飛ばされた。
やっと目が覚めたらしい瑞樹は、目の前にいる女の霊に今初めて気がついたかのように、凍り付いていた。
「・・・ミズキ・・・・、好き・・・。」
まるで、操り人形の様に、動く女の肢体は、どう見ても不気味だった。
呪縛から抜けたオレは、目に見えない扉を開け、隣の部屋へと入り込み、瑞樹の前に立ちはだかった。
「お前、どうして?・・・・、これは、ナンなんだよ?」
オレは、ある意味命張って、ここにこうして居るっちゅーのに、こいつのこの反応はなんなんだ?オレが聞きたいよ!
抜けているのか?鈍感って言うのにも、程度があるやろが!
「どあほ!下がっていろ。」
昨日、たんまり作った札を制服のポケットから取り出し、念を切って投げつけた。
札が蝶のような形に変わり、女の顔へと張り付く。ギャーッという悲鳴。
それでなくとも、醜く変形している女の顔が、爛れて行った。
「うっわー、ひでー顔っ・・・・。」
「・・・ば、バカっ、黙ってろ。」
迂闊に声に出した瑞樹の声が女の女であるだろう、部分を直撃した。
「瑞樹、瑞樹・・・先輩・・・・、私のこと好きだって・・・ィッ・・・イッテ。」
「解ったぞ!こいつ、昨日の女か?!どうしたんだよ、お前!」
突然瑞樹が立ち上がり、女に話しかけ始めた。
「お前、ちょっと・・・!待て。」
「化け物になりやがって!出て行けよ、ここはオレの部屋だぜ。」
「ま・・・、待て!そんなに煽るな・・!」オレの忠告も聞かず、瑞樹は女に向かって歩き始めてしまった。
「言っとくがなぁ、オレは不細工な女は大っっっっ嫌いなんだよっ!」
「だから!待てっっっ」
遅かった!



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