それでも月の夜には愛が降る 12

 「分かった。もう、いいよ。オレ達はこれで終わりだ。お前は、オレの気持ちはどうでもいいんだから。オレの言葉も、気持ちも、見えていない。」
 準は立ち上がり、リョウを見下ろす。
 「これで、安心しただろ。満足しただろ。」
 口元に張り付く残酷な笑みを讃えて、準はリョウを見下ろす。その瞳の端は苦しみを現していたのに、言葉ではリョウを突き放す。
 

見上げるリョウもまた、苦しそうな陰を瞳に映す。
 こんなにも、焦がれているのに、想いは届かない。すれ違っていく。お互いに、お互いを思う気持ちは同じな筈なのに、正直になるのが一番いい方法だと気付く筈もなく。
 見つめ合う準とリョウの目に映っている物は、お互いが求めていたものであるはずがないのに、すれ違っていく時間に為す術はない。
 「もう、出ていってくれよ。」
 リョウに背を向けたまま、準が言う。その声は、辛いとか、悲しいとか、そんな単純な表現で現すことが出来ない、泣いているのではないかと、又は、激しい怒りに襲われているのではないかと、想像させる声色だった。
 「準......。」
 小さく、囁くような声で呟くリョウの声は、準に問いかけた言葉ではなく、まるで自分に問いかけるような言い方だった。
 「さっさと、出て行けよ!」
 怒鳴る準の声を聞いて、リョウは準を傷つけたことを悟る。
 でも、しょうがなかった。
 二度と、リョウを見ることがない。
 そんな決意を感じさせる、準の背中を見ていると、自分の愚かさを恨まずにはいられなかった。
 
 二度と、準は、自分を見ない......。
 二度と、オレに「愛してる」って言わない。
 オレが望んだこと、オレが準にそうしてくれと、言った。
 もう、壊れた。
 もう、元には戻らない。
 望んでそうしたのに、コレが一番いい方法だと。準は準のままで......、オレは、オレは......。
 心臓がむしられる位いの痛さを、今更感じた。誰よりも、何よりも準を必要としていたのは、オレなのに、準がいない世界なんて、オレはいらない。
 
 物音すらしなくなった準の後ろ。
 リョウの気配すら感じなくなっていく、空気。
 耳を澄ますと、微かな息を吸う音がする。早く出て行けよ。そんなにオレを信じることが出来ないんなら、今何を言っても、リョウには届かない。
 明日になれば、届くとも限らない。
 どうすればいいかなんて、考えられない。早く、ここから出ていってくれ。じゃないと、じゃないとオレは、リョウに何するか、自分でも分からない。
 気持ちが、感情が、爆発しそうだった。
 
 「早く、出て行け!」そう怒鳴ろうとし、振り返って目に映ったリョウに、驚きの声を出さずにいられなかった。
 泣かないリョウが、泣くはず無いと思っていたリョウが、泣いていた。
 瞳から溢れる涙の数は夥しく、リョウのシャツに幾つもの涙の染みを作り、立ち上がったまま動けなくなったかのように、オレを見て、涙を流していた。
 
 「なんで、泣く......。別れを言ったのは、おめぇだろ......。」
 
 
 




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