それでも月の夜には愛が降る 16

新年明けましておめでとうございます。(今更ですが)

いやー、1月1日にはアップしようと、年末自分に誓ったはずなのに、いつのまにかもう、成人式まで済んでしまいました。

本当に、すみません。

待っていてくださる方が、いらっしゃる。
コメントくださった方、ありがとうございます。

久々の更新となりました。
続きをどうぞ

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------------ここから つづき---------------

「どうしたの、死相がでてるじゃん。」
 スタジオの壁に凭れながら、底が見えるほどの薄いコーヒーの入った紙コップを口にくわえたまま、準は目の前に現れた安藤真喜子に苦笑いをして見せた。
 同じ様な紙コップを右手に持った真喜子は、カラカラと氷の音をさせながら準の隣に腰を下ろした。同じように、準も真喜子の隣に座り込む。
 「リョウちゃん、どうした?」
 「今、病院にいる。」
 「で?」
 「何が?」
 「昨日、何があったの。」
 お互い、目を合わせる事はせず正面を向いたまま、話をした。端から見れば会話をしているようには見えないだろうほどの距離を保って、真喜子は準に話しかけていた。
 準の事は何でも分かるなんて、とても言えた間柄ではないが、互いに互いを「同じ人種」と感じていた。準の言葉のニュアンス、視線の向き、そんな些細な事柄からでも準の感情は何となく分かる、なぜなら、自分と同じ思いだと知っているから。
 今の、準は......迷ってるように見えた。何になのかまでは分からないけれど、準は迷って、疲れているように見えた。そして、その悩みを誰であろうと分かち合おうなんて思っている筈もないって事も伝わってきていた。
 「言いたくないんだ。」
 真喜子はカラカラ音をたてる氷を口にほおばり、空になった紙コップを準と自分の間に置く振りをして、準の顔を覗き込んだ。
 瞬間、目が合う。
 「でも、決心したんだね?」
 「気味の悪い女だな、相変わらず。なんで俺の顔見ただけでそんな事がわかんだよ。」
 「ふん、私の考えてる事だって、わかるんでしょ?」
 「まあ、な。」
 そのまま二人は、黙り込む。そして何も会話がなかったかのように準が立ち上がり、ADと何か一言二言会話をして、振り返ることもなくスタジオを出ていった。それを視線の端で見ながら、真喜子も立ち上がり、借り物の衣装のジーンズの膝をはらう仕草をした。
 そして、準が出ていった方と別のドアから姿を消した。
 
 非常階段の扉を開けるとネコの額ほどのスペースがあった。外の空気がひんやりと気持ちがいい。安藤真喜子は大きく深呼吸をし、右から流れてくる紫煙に軽く咳き込んだ。
 そして紫煙の犯人の方角を見ずに口を開く。
 「煙草、クサイよ!」
 「お前がそんな所に立っているからだろ。」
 暗黙の了解みたいなもの。
 あんな雰囲気を残したまま去っていった時、大抵準はここにいた。そして、この場所を知っているのは、ここに来ても許されるのは、リョウ以外では真喜子だけだった。
 真喜子がコンクリで出来ている粗末な階段に座ると、隣に座っている準が煙草を差し出す。それを唇に挟み込むと同時に準が顔を寄せてくる。初めてこれをされたときは、驚いたものだったが、当の本人は何のことだか未だに分かっていないらしい。
 準の煙草の火から、自分の口にくわえられている煙草へ火を移す。
 顔を少し斜めに傾けて、風を防ぐように二人で手を翳しながら、準から煙草の火を移す。こんなところ誰かに見られたら、写真にでも撮られたら、何も言い訳できない絵だと真喜子は苦笑する。
 「リョウちゃんが可笑しいのは、気付いていた?」
 何も言わず、ただ見つめてくる準の視線。
 時々、そう、こんな時思う。「なんで私は準と恋人同士になれなかったのだろう」。
 こんなにも分かり合えて、こんなにも魅力的な準をどうして愛することが出来ないのだろう。答えはいつも瞬時にやってきた。私も準もナルシストじゃない。こんなに自分に似た人間なんて愛せない。何を思って、何を考えているのか自分のことの様に分かる恋人なんて、お互いがお互いを傷つけて行くに決まっている。どんな言葉が一番相手を傷つけるのか、分かりすぎるほど分かっていて、それを承知で傷つけてしまう。
 
 「リョウを病院から連れ出した、昨日。そのまま逃げるつもりだったんだけどよ。」
 「ば~か。」
 「うっせえ、黙って聞け。リョウを知っていると思って、自分のモノだと思っていた。何も通じていなかった。でも、それは俺も悪いんだけどよ。」
 「何も通じていなかったって、リョウちゃんがそう言ったの?」
 準は、言葉を切り、頭を左右に振るだけで、もう何も言う気はなさそうだった。
 「リョウちゃんは、不安なんだよ。」
 「何もわかんねぇくせに......。」
 「あんたみたいな男は、デリカシーに欠けるんだ。愛してるとか、言葉じゃ駄目な時だってある。愛しているとか、好きだとか、そんな言葉は現実味が無いじゃん。そんなこと準だって分かってるでしょう?リョウちゃんは、あんたに知られたくない事あるんじゃないの?だから、自分も素直になれない。そして、準もね。アイドルやってると、色々あるからしゃーないけど、ねえ、準。私の勘が正しければ......、ううん、私だったら、リョウちゃんを掴まえる為にすることは一つだよ。」
 暑くなりそうな予感を感じる高い空を見上げながら、真喜子は話した。
 「で?悩んでいる顔しているけど、その目は、決心したんでしょ?」
 なんだか、泣きたくなってきた。今、準の顔をまともに見たら多分涙がでてしまうだろう。別に愛していた訳じゃない。自分と同じ準を見ると安心していた。「ああ、こいつもここで頑張っている。」なんて思っていて。リョウちゃんとデキテいること知った時だって、そんなに驚かなかった。リョウちゃんの見つめる視線はいつも準を追っていたから。悲しい目で準を見ているリョウちゃんを応援したかったから......。
 今、準は、決心している。
 私を置いて、ここから何処かに行ってしまう決心をしようとしている。
 多分、私も準の立場ならそうしただろうから、止めるなんて出来ない。
 でも、私は、今......、泣きそうなほど、寂しいよ。
 「行くの?」
 「その時が来たらな。」
 フィルターのギリギリまで深く吸い込んだ煙草を、コンクリの階段に捻り込み、準は空を見上げながら言った。
 「なんだよ、何泣いてんの。」
 振り向いた準が驚いた様な声を出した。その言葉に真喜子も又、驚いた。
 「アタシ、泣いてる?」
 人差し指で鼻先を流れる暖かな水滴を、準が掬い上げる。戸惑う様な色を瞳に浮かべている準に笑って見せようとしたのに、気持ちとは反対に、涙は止めどなく流れてくる。
 「ゴメン、準。なんだか、私だけ取り残される感じがして......。」
 そっと、準の暖かい腕が真喜子の頭を抱きかかえた。
 「お前がいてくれて、オレはいつも安心していた。お前が頑張っているのを見て、オレも頑張ってきた。」
 「バカ。なに言ってんの......。」
 「安心していたけど、お前は女だから、いつも心配していた。真喜子のこと妹みたいに大事だったよ、マジで。双子の様なお前を一人にさせて、ゴメンな。」
 何、言ってんの......。こんな時、こんな場面でその台詞を言うなんて、ずるいよ、準。
 悲しくなるじゃないか。
 「アタシが、男だったら、リョウちゃん私の事、好きになったかな?」
 態と明るく言った。
 「バカじゃん?お前オレとリョウとどっちに嫉妬してんの?」
 抱えていた真喜子の頭を離すと、軽くゲンコツを振りかざす真似をしてみせる準に、笑って応えた。もう、大丈夫だから。
 「お前も、早く男見つけろよ。」
 「余計なお世話だよ。」
 「ははは!全くだ!」
 立ち上がり、ジーンズの後ろのポケットから携帯を取りだし時間を確認する準を見上げた。
 「オレ、そろそろ戻るわ。」
 「ん、私も後から行く。」
 「じゃあ、な。」
 軽く手を挙げて準は、ドアの向こうに消えた。
 その姿を、目に焼き付けておこうと、真喜子は目を凝らして見つめていた。
 「バイバイ、準。」
 --- どっちに嫉妬してんの?
 あんた達二人の関係に嫉妬していたのかもしれない。
 真喜子は、吸いかけの煙草を靴の踵で消すと、立ち上がって大きく伸びをした。
 頑張ってね、準。
 そう、願わずには居られなかった。
 
 
 




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