
1
「一緒に暮らそう。」
「そんなん、ダメだって。」
「ただの思いつきで、言ってるんじゃない。」
出番までの待ち時間は、一時間とも三時間とも、その場にならなければ分からない。
その待ち時間の間、オレは相方のリョウに、話を切りだした。
この世界に、二人で飛び出したのは、三年前。
高校を卒業したと同時に、二人で故郷を後にして、上京して来て、まだ三年しかたって居ない。まだたったの三年、だけど……、オレ達は高校の三年間よりも長い三年間を、この世界で過ごした気がする。
もう、離したくない。オレのものでいろよ。
何度もそう、自分の気持ちの中で、お前の後ろ姿に言い続けてきた。
「一緒に暮らさなくても……、こうして毎日一緒にいれるじゃん。」
オレから目を逸らし、ぼそぼそと、下を向いて言葉を続けている。毎日一緒に居る時間がどんなに長くても、お前はオレがいないと、何するか、何しでかすか……。
白いカットソーから出る腕の白さ。華奢な骨は、小さな顎から、細い首までも強調されるが如くに際だっていて、触れると壊れてしまうのではないかと思わせる。だけど、そんなに華奢な体つきをしている訳じゃない。ちゃんと綺麗に筋肉だって付いている。ただ、綺麗な顔立ちから、つい細い印象を持ってしまうのだ。
リョウは細い猫っ毛の髪をわざと自分の横顔に被せているのか、隣に座っている俺にすら視線を向けずに喋った。
「こうやって、毎日……、ドラマの撮りで朝から、明日の朝まで、ずうっと一緒じゃん。ドラマが終わったら、コンサートだってあるから、まだまだ、ずうっと、一緒だろ?」
「じゃあ、此処でお前を抱きしめて、抱いても、誰もなんも言わないってのかよ。」
オレの台詞に、ビクンと振り向き、やっと視線が絡む。
オレは、本気で言ってるんだぜ。
「マジ……?準。」
その問いかけ応える様に、オレはリョウを押し倒した。
「だっ……、ダメだよ、誰か来る……、んっ……。」
喋り続けるリョウの口びるを自分の口で塞ぐ。慌ただしく廊下を駆けていく誰かの足音が感に触った。
甘い香りのするリョウの髪の毛を、鷲掴みにして仰け反らせる。
「い……、痛い。なにすんだよ!」畳の上に組み敷かれ、到底反抗なんか出来る状態ではないはずなのに、視線だけで睨み付けてくる。ああ、知っているよ、お前が見かけほどヤワじゃないって事ぐらいな。その目で、いつまでオレを睨んでいられる?
「掴まれたくなかったら、髪、切れ!オレが喋ってる時は、オレの目を見ろって何度も言わせるな!」
最近、オレの目から視線を外して喋るリョウが気に入らなかった。こんな風にオレを避けるのは、アイツがオレになんか後ろめたい事をしているって相場は決まってるんだよ。
リョウの睨んでいる瞳から視線を外さずに、髪を掴んだままその仰け反った白い首に下を這わせた。柔らかい喉へと唾液を滴らせながら、わざと厭らしく音を立てて口づけをした。
「う……ん。」ピクっと反応を示すリョウの右手が、オレの肩に触れる。肩先から徐々にオレの舌の動きに合わせるかのようにオレの首、耳、頬へと指が移動してくる。リョウが感じている時にする仕草は目よりも指で分かる。多分自分では意識していないのだろうけど。
思い切り、白い喉に噛みついてやりたい衝動にかられる。
「なあ、やっても、いい?」
勿論、最後まで。
「フェラだけにしといて。」
「なんでだよ!」
そう言って思い出す。次のシーンは、オレ、走るシーンだった。
「やめとこ。」
そう言い切って立ち上がるオレを横目で見ている。そんな目をするなら、最初から素直に従えばいいんだ。
「途中でやめて、たまらんか?」
「うるさいっ!」
そう、素直じゃない、リョウ。お前何か隠しているだろ?オレに言えないようなこと。何してる。
率直に聞いて応えるような奴じゃないから、苛々する。
「オレと一緒に暮らすってこと、真剣に考えろよ。」
「準、マジそうだから言うけど。何のために一緒に暮らさないといけないのか、わかんねぇよ。」
まだ畳に寝ころんだままの状態で、両腕で頭を抱え込む様にしながらアイツが言う。
「セックス、したいから?」
リョウの腕の隙間から、オレに向けてそんな言葉を投げつけた。
オレとリョウは、今年で出会ってからだと六年目だ。
オレが、最初にリョウを見つけた。だからお前は、オレのもの。
セックスをし始めたのは、二年前から。
四年間、我慢していたって訳じゃないさ。
そして、たまたま抱いたって訳でもない。
「お前、それ以上余計な事抜かしたら、ぶち殺すぞ。」
オレは、心底腹が立った。リョウは分かってない。オレが遊びで女を抱いているのと違うって、やっぱり区別がついていない。
お前が、好きだよ。お前を取られたくない。
誰に? バタンと勢いよく控え室のドアをまるで当たるかのようにして準は出ていった。
「いつも、自分勝手。」
そして、気まぐれで、短気。準はいつだってそうだ。「一緒に暮らそう。」なんて、何を思いついたか知らないけど、明日になったらそう言ったのだって忘れている癖に。
いつだって真に受けて、真剣に悩んで、応えようとすると自分で言った言葉さえ忘れているじゃんか。
何年つきあっていると思ってんの。
「一緒に暮らそう。か……。何だよ。今更……。」
何時までもそうやってオレのこと振り回していられると思ってんなよ。
むっくりと起きあがり、首に準が残して行った感触を思い出した。「セックスしたいなら、他の奴とすればいい。」いつも、置いてけぼりな自分はもう、厭だ。
すぐ横にある大きな鏡が、リョウの姿を偽り無く映し出していた。
白い指が、首筋をなぞって行った。うっすらと赤く充血し始めている自分の首を眺めて、もう少ししたら、これ……、目立つかな……。
そう、心配していた。
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