ボクの日常

「男とキス?したことあるよ。高校んとき、酔っぱらって、その勢い。」
あっけらかんと、そう言うオレの片思いの相手。
「で、その後ってどうした?」
午後の、誰も居なくなった大学の食堂で、サンドイッチをコーラで流し込みながらレイジがそう言うから、動揺を必死で隠すため、オレはわざと雑誌から目を離さずに、あたかも面白い事が書いてあるかのように装った。
目に掛かるほどの黒髪を五月蠅そうに頭を2~3度横に振る、その仕草、目を瞑る目頭すら妖しげで、色っぽい、レイジ。
開いた瞳は、切れ長で、二重の瞼が妖しげに光る。
この男のなら、抱かれてもいいかも・・・。そう思って、その思いを閉じこめて、もう半年になる。


「その後、どうしたって?どうもしねーよ。」
興味なさそうに、オレを見ずにそう言う。
ただの、普通の会話だった。
初めて、レイジを見つけたのは、去年の夏。同じ講義を取っていたにも関わらず、入学して始めてその日レイジを見た。
「おう!久しぶり。なにしてた?」
多分、彼の高校からの友人だろう男から声をかけられていたのを、思い出す。
オレは、自分で、自分を、ゲイだなんて自覚したことなど、今までに一度だってなかった。
そう、初めてレイジを見て、彼に欲情するまでは、ね。

男とキスして、何とも思わなかったって、レイジは言う。
その返答に、一人ドキドキするオレ。
「イヤじゃなっかたの?」と聞いて見たい。聞いても、変じゃないかな。
どんな男と、キスしたのだろう。
自分の欲望と、嫉妬。言葉が詰まって、喉から出て来ない。
たかが、こんな他愛ない会話に、飲み込まれて、それに捕まってしまいそうだ。
レイジの唇を盗み見る。
薄く、整った形。触れたら、どんな密の味がするのだろうか。
さらさらと瞼に落ちる、細い髪を掻き上げるレイジの視線と絡む。
「なに、見てんよ。男とキスして悪いか?」
すぐに不機嫌そうな色を瞳に湛えて、唇を尖らす。
レイジの唇から、視線が外せない。そうさ、オレだって・・・・、その唇に触れたい。
自分の唇に合わせたいよ。
願わぬ願望を、ぎゅっと押し込め、強く瞼を閉じた。
あと、どの位我慢出来るんだろう。
きつく握りしめる自分の手が少しだけ震えていた。




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