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それでも月の夜には愛が降る 22
2008年5月10日 日向夏姫 | 個別ページ | コメント(0)
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
「それでも月の夜には愛が降る」は、この回で最終回です。
ダラダラと、なんども更新が滞ってしまい、本当にごめんなさい。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
ではでは ↓ こちらから どうぞ
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照明が消え、悲鳴の様な歓声が響いている。ステージへと上る階段の途中で準は立ち止まり、リョウへと振り向いた。何も言わず、見つめ返すリョウの瞳。それには決心と言うより定めを感じさせる色を出していた。悲しいとか、そんな事では無く。
「リョウ、これが最後になるかもしれない」
差し出す準の手をじっと見つめるリョウ。
「ゴメンな」
「謝るなよ、オレはお前が側にいてくれたらそれでいい。お前を愛しているよ」
優しく笑う準の顔が、リョウにとって悲しくて、切なくて、言葉が出てこなかった。
「愛している」と言う準の言葉を何故今まで素直に受け入れる事が出来なかったのだろう?準の想いはいつだって真剣だったのに。オレはそれを知っていたのに......。
真っ直ぐで、一直線に伸びてくるその想いが怖かった。
自分はそうではなかったから。
準への想いを封じ込める事だけをいつも考えていたから、準を受け入れる事が出来なかった。自分が純粋でないから。オレは汚いから。ストレートな準が怖かった。
オレ、今......、準の夢であり、オレの唯一の居場所である「ステージ」という世界を自分のしたことでお終いにしようとしている。オレさえ気を付けていれば防げたかもしれなかったのに。
いや、オレ......、こうなることを心の何処かで望んでいたのかもしれない。
デビューして三年、二人で初めてギターを手にしてステージに立った時のことを思い出す。少し緊張して、でも嬉しそうに笑っていた準の顔を思い出す。
オレは、いつだって準が好きだった。
準が、笑いながらオレに手を差し出している。オレが側にいるだけで、それだけでいいと言いながら。そしてオレを愛していると言う。
こんな場面にでもならなければ、オレは気付く事もできなかったのか。自分の気持ち、そして準の気持ち。
「準、オレもお前を愛している。オレはお前の側に居てもいいの?」
差し出された準の手を握り返した。力を込めて握り返す準はそのままリョウを自分の立っている所まで引き上げる。
「お前、バカだろ。ホントは」
にやっと笑っている準は、そのまま手を繋いだままステージへと走り出した。
「さあ、行こう」
目映いライトが準とリョウを照らし出す。ステージから見る客席は色とりどりのペンライトが光り、まるで夜に光り輝く星の波の様だった。
徐にマイクスタンドを掴んで歌い出す準。それを追いかける様に甘い声でついていくリョウの歌声が美しくハーモニーを奏でる。
オレは お前を連れて 月の夜に出かけよう
月の夜は オレ達を
隠して 魅せて 切なくさせて
泣かないで
お前だけを 好きだから
月の光を 信じよう
優しく光る moon light
オレのこと 信じられなくなっても
オレは オレの愛を 月に 託したから
いつまでも お前に 降り注ぐよう
月の光は オレの愛
オレのこと 信じられなくなっても
月は お前を 守るから
それでも 月の夜には 愛が降るから
回想せずにはいられない。長い夜を準は思い出す。
オレ達のデビュー曲を歌う時、いつも胸が切なく痛んだ。オレが詩を書き、リョウが曲をつけたこの曲。
白い喉を仰け反らし、歌うリョウを見つめる。バラードがロックに変わり、二曲目が終わると準は演奏を止めた。客席のファン達は、一瞬静まりかえる。戸惑う雰囲気が漂う中で準がマイクスタンドを掴み、外そうとしている音が会場一杯に広がっていた。
ギターを抱えたまま、準を見守るように立ちつくしていたリョウが、準に歩み寄る。リョウがスタンドを掴み、準は苦戦していたマイクを取り外すと、口元だ けで笑って見せる。ファン達はこれから何が起ころうとしているのか、一瞬でも見逃さないようにしているがの如く、ただ黙って二人を見ていた。
「ごめんな。今日のライブはここまでです」
客席を見上げながら、準が言う。
静まりかえっていた客席から、不満と悲しみの言葉が溢れかえる。準は少し困った顔をし、左手を挙げ制する。そして「静かに」という様に、その手をそっと下ろし人差し指を唇にあてた。
「みんなに言わなけりゃなんない事があるんだから、静かにして」
ざわざわと音を立てながら、会場内は徐々に静まりかえって行く。何かが起ころうとしている雰囲気を壊すのを恐れるように、色づいていたペンライトの明かりさえも消え、ステージの上に立つ二人だけが暗闇に浮かんでいるようだった。
「もう、知っているだろうけど」
そこで、言葉を句切ったまま俯く準の隣にリョウが寄り添う。絡み合う視線で言葉を失う。
何かを囁く準に、そっと頷くリョウ。意を決したように、準は正面を向いた。
「オレさ、リョウを愛している。あの写真はどれも真実なんだ」
多分、凄い騒ぎが起こるだろうと、予想していた。どうやっても、収まらないかもしれないと想像した。何言われても、どう思われても、しかたないと覚悟を決めて言ったつもりだった。
その覚悟はしていた筈だったが、会場内は静まりかえり、誰も騒ぎたれるどころか声を発する者すら居ない。それでも、押しつぶされそうな程の静寂という名の圧力は圧倒的に会場内を包み込んでいた。
「知っていたよ、準!」
二階席の南スタンドから誰かが声をかけてきた。
二人とも、その声の主を捜そうと、二階席を見上げる。その声に誘発された様に、会場内のあちらこちらから、同じように準とリョウに対して声をかけてくる ファンの声がしはじめた。どれも、不快を現す言葉では無く、「それでも、いいんだよ」と言う同意を現すものだった。
「だから、何処にも行かないで!」
「リョウ!行かないで!」
「誰も、驚いていないから」
知っていたんだろうか。オレ達が、オレがリョウを連れて行こうとしていることを。それともやはりみんなも、ドラマのオレ達とシンクロさせているだけなんだろうか。
リョウのファン達はことさら、涙声でリョウに「行かないで」と訴えていた。その声が切なくて、溜まらなかった。リョウは何度も、何度も頭を下げ、手が痛くなるだろう程、客席に向かって手を振り続けていた。
「ありがとう」
唇がそう言っていた。
「行くぞ」
今からが勝負だった。このステージを降りてからが、オレ達の再スタートだと思った。オレはリョウを連れて行く。
ここでオレ達を認めてくれているファンを残してでも、オレは行かなければならないと思った。引き返したくない。リョウの為に、オレの為に、二人の為に。
リョウは、先に走り出す準を追いかける様にし、ステージを降りた。少しだけ振り向き、客席を見る。コレが最後のステージなんだろうか......。実感が湧かな いが、それで良いと準が言うなら、オレにとっても準が隣にいてくれるなら、未練はなかった。そう、あれだけ好きだったこのステージにすら、不思議と未練は 湧いてはこなかった。
ステージを降りるとそこは現実だった。
オレ達のスタッフが緊張感を全身に現し、荷物を持った佐上では無いもう一人のマネージャーが走り寄ってきた。
「記者が、集まっています。これを持って、こっちへ」
広くは無い廊下を走り出す。スタッフ達が口々に声を掛けてくるが、その言葉を理解する事が出来ない。なにか、オレ達がステージに立っていた間に決まったことがあるようだった。
「オレ達を逃がしてくれるのか?」
「これから、記者会見を開く事になっています。あなた達から直接メッセージを送るということで、記者達は今、別室で待って貰っているんです。」
まだ、オレ達に付いて日が浅い女のマネージャーは、オレンジ色に染まった長い髪を鬱陶しそうに掻き上げ、まるでとんでもない大役を仰せつかったかの如く緊張していた。
「オレ達がいないのを知ったら?」
リョウが、自分のコートとバッグを受け取りながら、尋ねる。
「全て、佐上さんがまかせろと言ってました」
「なんで......、佐上さんが......?」
「さあ、これを持って、行ってください。そして佐上さんからの伝言です。『必ず帰ってこい』と言っていました。」
重い扉を開け、マネージャーは準に封筒を渡した。中には二人のパスポートと二枚のクレジットカードが入っていた。思わず顔を上げ、今来たばかりの廊下を戻ろうとする準を両手で阻む彼女の顔は真剣そのものだった。
「分からないんですか?佐上さんの言葉が。必ず戻って来い。そう言って居るんです。準、リョウ......、佐上さんの気持ちが分かりませんか?」
涙を目に一杯に溜めて、行こうとする準を阻む彼女もまた、辛そうだった。
「そして、これが私からの餞別です。準の車じゃ目立ちすぎるでしょうから」
そう言ってピンクのクマのマスコットがついたキーを渡した。先月、新車を買ったんだ、と嬉しそうに話していた彼女の顔が浮かんだ。
「いいのか?」
「必ず、帰って来て下さい」
準はじっと彼女の顔を見つめ、答えは返さず、頬に軽く手を当て「ありがとう」と言い、準の手を取り駆けだした。
発進する軽いエンジン音を立て、暫く走るまでどちらも口を開こうとしなかった。
いろんな事が頭の中を混乱させようとしている。
佐上さんやスタッフ達が、オレ達を見逃してくれた気持ち。これから起こるであろうスキャンダルじみた記事を想像する。それらを全部彼らに押しつけたまま、オレ達だけいなくなろうとしている。
迷惑をかけている......。その感情が、溜まらなく悲しかった。
それでも、行こうとしているオレ達を許して欲しい。
色々な感情が交差する。
「お前、泣いてんの」
「ばっかじゃねーの?お前だろ」
「戻ってもいいんだぜ」
「ば~か、戻らねえよ。何処行く?」
「南の島にでも行きましょうか」
リョウが、車のMDのスイッチをオンにした。
曲がれてくる歌は、「それでも月の夜には愛が降る。」
月の光は オレの愛
オレのこと 信じられなくなっても
月は お前を 守るから
それでも 月の夜には 愛が降るから
END
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