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それでも月の夜には愛が降る 5
2007年8月16日 日向夏姫 | 個別ページ | コメント(2)
リョウがテイクを重ねている。らしくない。いつものアイツだったら台詞は全部覚えてきているはずなのに、何度も同じ台詞を間違える。
スタジオの端、壁に背をつけ、目立たない様準はリョウの撮影をじっと見つめていた。
いい加減、スタジオ内から深いため息が漏れ始めていた。共演者の安藤真喜子が何かリョウに話しかけているが、リョウは返事をしている風では無かった。
カンペが用意される。リョウの表情からは読めないが、明らかに不愉快な感情が準には理解出来た。僅かに、ほんの一瞬だけリョウの口元が歪む。その表情をするときのリョウは、かなり機嫌が悪いはずだった。
「何、やってんだか......。」
つい、言葉が口から漏れていく。振り向くスタッフを横目で見ながら、準はスタジオを出ていった。
らしく無いことをしている、リョウ。
毎日、何をしているのか、話そうとしない。いや、昔からそうだった。
事務所が借りてくれたマンションを勝手に出ていった時だって、オレに何も相談すらしなかった。
「何?」
同じ階の少し離れた部屋に住むリョウの部屋に入った瞬間、部屋中に積み上げられている段ボール箱に仰天した。
「何って、引っ越しするんだ。マネージャーから、聞いてないの?」
「なんで、お前のことマネージャーに聞かなきゃなんないんだよ。だいたい何の為に引っ越しすんだよ。ざけんなっ!」
「すぐ、怒る。」
怒るのだって、当たり前だろう?リョウの頬を張り倒してやりたかった。
「なんの為のに、出ていくんだよ!」
オレの質問に答えず、段ボールの隙間から見えるソファに腰掛け、じっとオレを見つめていた。
「オレの側にいるのが厭なのか?」
「その、反対。」
静かな目をして、リョウはそう言った。伏せ目がちに長い睫が頬に陰を落とす。
なんで、そんなことを言うのか、分からない。その言葉の意味がわかんねぇ。側にいるのが厭じゃないなら、なんでオレになんの相談もしないで、オレから離れて行こうとすんだ。
オレ達って、なんなの?沸々と黒い陰の感情が沸き立つ。
「距離を置きたい。」
「なんの、為に?」
苛々としていくオレ、心を閉ざして行くリョウ。オレが好きならどうして離れて行こうとするのか、理解出来ずに、ただ苛々が積もっていく。
壁に向かって、拳を打ち付けた。
「勝手にしろ。」
「だって、準はオレがいつも側にいたら、邪魔なんだろ?」
思いがけないリョウの言葉が、部屋を出ていこうとしたオレを引き留めた。振り向くと、泣かないリョウが、泣きそうな目をして、オレに訴えているかのように見ていた。
「邪魔?どうしてそんな事、言うんだ。お前はオレに何も言わないからオレはお前の考えている言葉がわかんねえよ。」
泣かせたく無かった。泣くはずはないと、いつも思っていた。オレの何処がリョウにそんな言葉を言わせたのか。ゆっくりとリョウに近づく。リョウの座っているソファの前まで来ると、リョウはオレから目線を外し、オレの指輪を見つめていた。珍しくもない銀の装飾が施された重厚な指輪を。
「わかんねぇから、ちゃんと話せ。」
ジーンズのポケットに手を突っ込んでリョウの視界から指輪を隠した。無くなったオレの指を探すかのように、オレを見上げるリョウ。なんで......、そんな目をする。
「女、出来たんだろ?」
「何?意味わかんねぇ!」
「女、出来たんだろ?いつだって何も言わないのは準じゃん。つき合ってんだろ?言えばいいじゃん。」
感情をむき出しにして、オレに噛みついてくるリョウ。そうやって、言ってくればいいんだ、いつだって。
「女って、違うだろ。」
立ったまま、リョウの髪に触れようと、ポケットから出した指先を延ばした。
「何、違うんだよ、何人女を取り替えているか、何も知らないと思ってんなよ。」
延ばした指先は、そのままリョウの手で振り払われ、行き場を失う。
「取り替えてるんじゃねえ。」
あんなの、ただ抱いているだけどろ。寄って来る女なんてヤマほどいるから、ただ、抱いただけじゃん。愛じゃねえよ......、そんなん、言わなくても分かるじゃん。
「愛じゃねえよ......、なんで。そんなん言わなくても分かるだろ。」
「準は、昔からそうだもんな。相手の感情なんかどうでもいいんだ。セックスしたいだけじゃん。」
「そうだよ、お前はやらしてくんないからな!」
リョウの顔から、表情が消えた。
「ゴメン。言い過ぎた。」
言わなきゃ、何も伝わらない。いくら長く一緒にいても、オレ達一人の人間じゃないから、お互いの思っている感情まで分からない。
オレが、リョウを分からないのと同じように......、リョウだって......。
「ゴメン。リョウ。」
「いいよ、別に......。なぁ、オレ達って、何なの?」
オレ達って、何なの?ってリョウは、オレに聞く。オレだって同じ台詞を返したい。
「オレ達って、何なの?オレも知りたい。オレ達、うまく行ってたじゃん......。オレはお前が好き だ。それだけじゃ、足りないのかよ。信用できねえのかよ。」
「オレも、準が好きさ。だから、離れたい。」
そう言って、リョウは越していった。去年の春。
リョウの越した先には、行ったことが無い。時々リョウが訪ねてくるから、それに毎日のように一緒にいるから、別にいいと......、そう思っていた。勘違いしていた。
離すべきじゃなかったと、特別な根拠がある訳じゃないのに、今はそう思う。
オレ達に用意された部屋に近づく。ガランとした部屋の中。
リョウが出ていって、オレ達の仲が終わった訳じゃなかったから。あんな事で食ってかかってきた リョウを、焼き餅だちと済ませていたから。
相変わらず、オレに対して笑っていたから。
なのに、今になってこんなに狂おしいほどリョウを捕まえたいと思う感情は、どこから来るんだろう。この溢れる程の焦燥感は?
なんの為なのか......。
背中から、不意に携帯のベルの音。オレの音じゃない、リョウの携帯が鳴っていた。
触れてはいけない。そう思えば、思うほど、心臓は高鳴り指は震えるのに、さっきリョウが仕舞っていた黒いポーターのジッパーにオレの指は延びて行った。
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コメント(2)
れおん :
はじめまして!
御厨鈴音(みくりやれおん)と申します。
先ほどブログペットの「オリジナルボーイズラブ」の方に登録させて頂きました♪よろしくお願いします!
小説読ませて頂きましたが、なんか超かっこいい~です。キャラクターも文面からあふれ出るオーラ?素敵です~!
更新、楽しみにしてます♪
日向夏姫 :
れおんさん、コメントありがとうございます。
ブログペットの方でもお世話になります。
小説、読んでいただいてありがとう。
すっごく、嬉しいです。
感想第一号様ですね!
これからも宜しくお願いいたします!
れおんさんのところにも遊びに行かせてくださいね!
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