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それでも月の夜には愛が降る 6

2007年9月 8日 日向夏姫 | | コメント(1)

 「最近、何しているの?」
 安藤真喜子が、撮影の合間に話しかけてきた。リョウは曖昧な表情を浮かべて、ただ笑ってみせた。
「何って?」
「相変わらず、準と一緒なのかな?って思ったから。」
 安藤真喜子は、好きな部類の女性だった。性格のさっぱりしている所、裏表がない所。話していて安心出来る、この世界では数少ない友人だった。去年準と共演していたとき、何度か一緒に食事をした覚えがある。 
 今回のドラマは近未来の設定で、安藤真喜子はオレのカノジョ役だったから割と一緒にいる時間が多くなっていった。グレイのカットソーの上にエンジ色のタンクトップを重ねて着ている。履き古したジーンズに素足という衣装は、そのまま彼女の私物かと思わせるほど自然で似合っていた。
 

短く切った髪に細い指を這わせて、リョウに振り向く。言いたい事、分かるよ。らしくないね。いつもならもっと直球で聞いてくるじゃん。
「準とはもう事務所の寮じゃないから、プライベートでは別だよ。」
「プライベートでは、何してるの?」
 ふふっと笑いが漏れてくる。真喜子は準の友人。まるで兄弟。
「真喜子ちゃん、何が聞きたいの?」
「リョウちゃんには、お見通しってことか。」
 ちょっと不満げな顔して、口を尖らせた。もしオレがつき合うとしたら、やっぱりこういう感じの子を選ぶだろうなって、性懲りも無く思って苦笑した。
「オレの相方と、思考回路と行動パターンが似ているから。って言うか、分かりやすいよ、真喜子ちゃん。」
「じゃあ、率直に聞くけど、なんで舞子ちゃんと寝たの?」
「何でって......、なんでそんなこと聞くの?誰かに......、もう言った?」
 狼狽える自分がちょっと情けない気がした。舞子と割と仲がいいみたいだから、彼女から直接聞いたのだろうが、なんでそんな事、オレに聞くんだろう。
「何で?って顔している。誰にも言ってないよ。準には言ってない。」
「準......の事なんか......。」
「隠さなくてもいいよ。リョウちゃんと準の事、準に聞いているから。」
 驚いた顔を隠そうともせず、リョウは真喜子の顔を見た。真喜子は知っていた?いつから?
「イヤだった?私が知っていたの。準に吐かせたんだ、本当は。だって、見てれば分かる。あんたたちの雰囲気で。それなのに、どうしちゃったの?準と何かあったの?」
 「何もないよ。」
 それきり、言葉を切った儘もうリョウは何も話す気がない事を真喜子に態度で表した。
 
 何もないさ、オレがおかしいだけ。準を好きなんだか分からなくなってきた。オレが好きなのは準だけだった。準は知らない、オレが高校の三年間ずっと準だけを見ていたのを。切れ長の瞳、鋭い言葉、我が儘で気性の荒い所も全部好きだった。
 どんな女と寝たって、つき合ったって、オレは友達でいられれば、この関係を崩さなければ......、自分のこの気持ちを準に知られる事がなければ、大丈夫だと思っていた。
 オレ、おかしいのかな?
 何度だって、自問自答した。男のオレが同じ性を持つ準に対してこんな感情を持つのって。抱かれたいって何度も考えた。だから、準がオレを抱きしめて、好きだと言ってくれた事が信じられなかった。嬉しかったのに、それでも素直になれなかったオレ。
 
 準は知らない。オレがずっと心で思っていたこと。純粋な気持ちでお前の隣にいたわけじゃないってこと準は知らない......。汚いオレの感情を、準は知らない。
 準が、オレを抱くなんて事ある分けないって思っていても、心のどこかでいつも考えていた。わざと準に見せた。気づかれたかったのかもしれない、オレの気持ち。
他の誰かに抱かれた体を、準は「オレが消してやる。」って言ったのに、オレはそいつに抱かれながら、お前の事を考えていたなんて、どうして言える?そいつに突かれながら、ヨガっていたオレはどうしたらいい?
 汚いオレ......。準を巻き込んだのはオレ。
 離したくない。側にいたい。オレを、オレだけを見ていて......。本当は嫉妬でぐちゃぐちゃな癖に素直になれない。「好きだ。」そう言っても、準はやっぱり女を抱く。
 女が好きなんだろう?オレが準を捕まえているから、準は勘違いをしているのかもしれない。オレに対する気持ちは、「愛」なんかじゃないんだろう?
 「独占欲」それが何処から来るのかなんてどうでもよかったんだ。どんな感情でも、準がオレのものであれば、勘違いな「愛」であっても。
 準、でもやっぱりオレに対する気持ちは「愛」じゃねぇんだろ?
 準の言う「好き」っていうのは、「ライク」で「愛」なんかじゃ無いんだろ?オレだけいつも置いてきぼりなのはもうイヤなんだ。最初は、側にいられればそれでいいと思っていたはずだった。でも準が自分の物になったと思って、いい気になっていると準はいつもオレを突き落とす残酷な目で、オレを追い込む。
 オレだけ、好きなのはもうイヤだった。準に抱かれて、よがる自分に吐き気がした。
 オレが準を好きだった。
 
 準だけ、いつも目で追っていたから、これが恋だと勘違いしたのかもしれないじゃないか。オレだって、ただ綺麗な準に憧れていただけだったかもしれない。
 そう、信じ込みたかったんだ。
 だから、女を抱いた。
 
 そんなことで、どうなる筈もなく。馬鹿なオレ。何人の女と寝たって、求めてしまうのは準の肌だった、準の温もりだった。
 
 オレは、おかしい。もうずっと前からおかしいんだ。準に出会ってから、ずっと......。
 抱くよりも、抱かれた方が感じる。準はオレのものになるはずなんてないのに。求めて、求めて、焦がれる。抱かれなければ良かった。準の唇を知らなければよかった。そうなら、オレは自分の汚さ、醜さに気づかなかったかもしれない。
 女を抱いても埋まらないんだ。
 それでも抱くのは、抱くのは......。
 オレの汚い体で、抱かれる女も汚してやりたかった。
 二度と、オレに向かってあんなこと、言わせたくない。
 
 オレは、おかしい。おかしくない......。
 





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