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タイムアウト 3
「オレを見て貰いたっかた。声をかけて貰いたかった。他の兄弟の様に接して貰いたかった。『どうしてお前みたいな子供が私から産まれて来たの?』そんな風に言われたくなかったけど、母親が一番オレの存在を苦しんでいたんだって、分かった。だから……・」
自分でも分からない。オレは瑞樹に両の手を伸ばしていた。瑞樹が、泣いているような気がした。 実際は、泣いてなんかいなかった、鼻声になっているのはオレの方。
「もう、ええよ。瑞樹、もう、分かったから。言わなくていい」
伸ばした腕は、瑞樹を捕らえ、抱きしめた。
そんなことは、もう言わんくて、ええよ。
瑞樹の髪の香りを体中で感じながら、囁いた。
「お前は、オレを助けてくれた」
「ああ、そうやな」
「お前は、オレのこと何も知らなかったのに、オレを命がけで助けてくれた。……、オレに真っ正面から入っていたのは航太だけだ。でも……」
言葉を句切った儘、オレの腕の中でじっとしている。
「でも、なんや」
「お前は、聞いたんだろ?オレの事。そして、こんなオレをどう思う?」
そっと、オレの両手首を掴み、オレの目を覗き込む。薄い硝子の様に光る瑞樹の瞳を間近で見た。 ここで何か言わなければいけないと思えば思うほど、言葉は出ては来なかった。
「なに、言うてんの。アホ……」
わざと素っ気ない言い方をした。オレの手首を掴んでいる瑞樹の手を振り払い、瑞樹に背を向けた。
こんな態度をしたら、どう思うかなんて考えるよりも、さっきまで腕の中に感じていた瑞樹の体温がやけに生々しく、オレの心臓を高鳴らせていた。あれ以上近くにいたら、逆上しそうだった。
瑞樹に背を向け、まるで何もなかったかのように包丁を握り、まな板に載った儘の葱を掴んだ。
「あほ、って何だよ。オレの事、どう思ったか聞いているんだろ?話したじゃないか!お前の聞きたいこと、話しただろ?それなのに、「あほ」だけかよ?聞いて知ってるんだろ?親に見放されたから、ここにこうして居る。そんだけじゃない!」
「うっさい!何を気にしとる言うんじゃ!」
捲し立てる瑞樹に考えるより先に、言葉が出た。こんな風に言いたかった訳じゃねえのに!
「やっぱ、気にしてるんだ」
椅子から立ち上がりオレのすぐ近くまで接近している瑞樹。オレの顔面から僅かに十センチと離れていない距離まで瑞樹の顔が迫っていた。
囁くような声色、薄い色素の瞳、白い肌、桜色した唇。
身体の何かが、疼く感触を覚える。
髪の色と同じ色したその眼差しが、暗くくぐもる。なんでそんな目をする。
「何、なにを気にしてる、言うん……」
ごくっとオレの喉がなった。
「航太、ホモだのゲイだの言われているだろ。オレの噂、知っているんだろ」
今にも唇が触れてしまいそうな程、接近してくる瑞樹の顔。
掠れた声が、マジ話だと言っている。
オレより数センチ高い上背、少し見上げる角度の瑞樹に、なんと答えればいいのか、言葉を失った。
「オレの噂とか、気にしているんだろ?」
手首を捕まれたまま、振り払えばそう出来たはずなのに、瑞樹から、瑞樹の瞳から視線を外せないでいた。
「教えてやるよ。知りたいだろ。本当のところ……」
最後の瑞樹の声が途切れた瞬間、オレ達は周りから緑の葉けむる、蒸せるような香りに包まれた。
森の中にでもいるような錯覚。
吹き荒れる熱い風。
目眩がした。
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