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だから、待て! 2
2008年3月26日 日向夏姫 | 個別ページ | コメント(0) | トラックバック(0)
月桂樹の葉を捕り、水を替え、うそっぱちの念仏を唱えて、さっさと部屋へと戻ろうとした時だった。じいちゃんが、頭を抱えて、廊下に蹲っているのが目に飛び込んできた。「じいちゃん!大丈夫か?!」
オレは、動揺した。だって、ここに来てからもう10年近くなるけど、じいちゃんが倒れるのは、見たことがなかったから。風邪ひいて、熱出すことすら、珍しいじいちゃんが頭を抱えている。どうしよう!じいちゃんが死んだら、オレはどうしたらいいんだよ。
「じいちゃん!死ぬなー。」
じいちゃんの肩を掴み、揺さぶった。
「来ている、誰かが、来ておる。」
「じじい、もう、ばあちゃんが迎えに来たのかよー!」
「この!ドアホ!」
キッと、睨んだその目と、指の先が標している場所は、オレの部屋だった。
「オレ?・・・・、オレの部屋に誰かが来ているのか?」
直感で、それがヒトでないことが、解る。
じいちゃんは、さほど有名ではナイにしろ、除霊士だった。もののけ、邪悪霊、そんなものが寺に入り込まない様にと、修行したことがあると聞いた事があった。
もののけ、オレにとっては、いつも近くに感じていた者だった。じいちゃんは、オレの腕の中で目を瞑ったまま、動こうとしない。
「じじい!寝た振りすんなよ!」
「行って来い。オマエの力を見せて貰おう。」
ゆっくりと瞼を開き、オレの目を見て言った。
オレの力って?
じじいは、知っているのか?オレには、変な物が見える力があるって・・・。オレは、じしいには、一言も言った覚えはない。
今まで少ないながらに、生きてきたオレにとって、この力についてはタブーだったんだから、誰にも言った覚えはないし、見られた覚えもなかった。
小さい頃から、建物の陰、公園の隅とかに、人影を見つけては、怖くて泣いていた。
そんなオレを母親は、「怖くないのよ。何もしないから。」と言っては、優しく抱きしめてくれた。あれは、今思えば・・・、母親にも見えていたんだろうか。
それから、たらい回しにされた親戚の家でも、時々見つけて、うっかり口走ってしまって、気持ち悪がられた。それから、オレは誰にも言ったことは、ない。
「ボケッとしとらんで、さっさと見に行け!」
有無を言わさないじいちゃんの言葉に逆らうことすら出来ずに、オレは立ち上がった。
恐る恐る、廊下を軋ませながら、自分の部屋へと歩く。
確かに、周りの空気の色が違っている。
厚い、脱脂綿に水を含ませた様な、そんな感覚に襲われた。
誰も居ないはずのオレの部屋から、微かにキーボードを打つ音がカタカタとしてくる。
引き戸になっている部屋の戸に手をかけた瞬間、悲鳴のような声が聞こえた。戸にかけた自分の手が、全身が金縛りに合ったように、動かなくなった。
膨れ上がった空間を、部屋の向こう側に感じた。動かなくなった自分の右手を、どうにか動かそうとして、必死にもう片方の手を近づけようとするが、金縛りにあった自分の身体は、重力がのし掛かったかのように重く、押しつぶされそうだった。
じいちゃんを呼ぼうとしても、声が出ない。熱い固まりが、オレの身体を通り抜けていくような感触を覚えて、吐きそうになった。一瞬だけど、その女の感情が、オレの全身に流れた。悲しみ、悔しさ、辛い恋。そして、驚いた事に、昼間見た、アイツの顔だった。
激しい鼓動を感じ、呪縛から逃れると、やっと息が出来るようになり、オレは思いっきり叫んだ。
「まだまだ、だな。航太。」
「じ、じじい・・・、いたんなら、た・・、助けろ・・・。」
部屋の前で力無く倒れ込んでいるオレを見下ろしながら、喋っているじじいにムカつきながら、オレは全身から力が抜けていくのを感じていた。
それでもどうにか、柱に捕まりながら自力で立ち上がり、今ではもう既になんの気配も感じない自分の部屋の扉を開けた。
「うっ・・・」
思わず、口を押さえたくなる程の臭気に2~3歩後ずさりしてしまった。
「感じるか?航太。」
「くせぇ・・・。」
「死人の臭気だ。ここに居たヤツは、死んでからまださほど時間が経っていない。どこでこんなの拾ってきやがったんだ?」
「知らねぇよ!」
「何が見えた?」
じぃちゃんの目は、いつになく鋭く光っていた。「飛び込んで来ただろ?その時に、何が見えたかって、聞いているんだ。」
オレは、目を瞑って思い出そうとした。
「悲しみ、失恋?男の顔!オレの知っている、同じ学校の男の顔だ。」
「見て見ろ。」
じぃちゃんが指さした先の、パソコンを見てみた。
開いた覚えのない、メーラーのメールボックスが点滅していた。それは、メールが来たことを知らせる点滅だった。
新規メールを開くと、そこには、男の名前だけが、示されていた。
「 鷹東 瑞樹 」
「誰だ?」
じぃちゃんが、オレに聞く。知らねぇよ。オレは、首を横に振るだけだった。
「あほんだら!同じ学校の男の事だろうが!明日、学校に行ったら、調べて来い。」
「え~~~~~!ヤだよ!これ以上関わり合いたくないよ!」
心底、そう思った。霊体験なんて、もう懲り懲りだ。
言った側から、じじいのゲンコツが飛んだ。
目は、いつもの濁った目じゃねえ。
「航太、オマエはもう関わっているんだよ。これを自分で片づけない限り、オマエはあの女の子に取り憑かれたままになる。」
「じぃちゃん・・・・、オレ、怖い・・・・。」
「ドアホ!一辺死ね!」
「これが、寺の住職の台詞かね・・・・。」
夕飯の支度をしながら、もう一度じぃちゃんに、訪ねた。
「なあ、オレあそこで今晩も、寝るんか?」
「後で、札を作ってから、部屋に貼っとけ。」
札ぁぁ~?!魔よけの札を作るのは、オレの役目だった。いつも、バイトだと言いながら大量に作らされていた。
でも、あんなん、うそっぱちじゃん!
「あんなんで、効く訳ないよぉ。じじい~・・・・。」
「効く、効かない、はオマエの力次第。ちゃんと護摩も炊けよ。」
オレは、はっっっっきり言って、オカルトは好きじゃねえ。
自縛霊も、浮遊霊も、いつも近くに感じるから、シャレになんねえ。
世のオカルト好きってのは、実際自分で体験してみればいいんだ。どんなに怖いものか、全員知りやがれっ、てんだ。
見ようとすれば、道の端に座り込んでいる男や、路地の陰に潜んでいる怪しげな物達を見ることが出来る。いつからか、なんて覚えていない。
父さんと母さんが死ぬ前から、見えていたのは、確かなことで。
「なんで、死んじゃったんだよ・・・。」
母さんは、確かに見える人間だった。おぼろげに覚えている。部屋の隅、公園の陰に時々現れる、そいつらを見つけると、指を交差して、呪文を唱えていた。
すると、奴らは、消えていなくなっていった。
今の今まで、そんな事は、忘れていた。母さん・・・。
死に神すら、見ようとすれば見えてしまうオレは、どうすればいいんだよ。
ブツブツ文句を言いながら、護摩を焚き、札に念を入れる。
「ああ~、また来たらイヤだよ~。ちくしょー!あの男が鷹東瑞樹っちゅ~なら、何がなんでも、聞き出してやる。」
じいちゃんの肩を掴み、揺さぶった。
「来ている、誰かが、来ておる。」
「じじい、もう、ばあちゃんが迎えに来たのかよー!」
「この!ドアホ!」
キッと、睨んだその目と、指の先が標している場所は、オレの部屋だった。
「オレ?・・・・、オレの部屋に誰かが来ているのか?」
直感で、それがヒトでないことが、解る。
じいちゃんは、さほど有名ではナイにしろ、除霊士だった。もののけ、邪悪霊、そんなものが寺に入り込まない様にと、修行したことがあると聞いた事があった。
もののけ、オレにとっては、いつも近くに感じていた者だった。じいちゃんは、オレの腕の中で目を瞑ったまま、動こうとしない。
「じじい!寝た振りすんなよ!」
「行って来い。オマエの力を見せて貰おう。」
ゆっくりと瞼を開き、オレの目を見て言った。
オレの力って?
じじいは、知っているのか?オレには、変な物が見える力があるって・・・。オレは、じしいには、一言も言った覚えはない。
今まで少ないながらに、生きてきたオレにとって、この力についてはタブーだったんだから、誰にも言った覚えはないし、見られた覚えもなかった。
小さい頃から、建物の陰、公園の隅とかに、人影を見つけては、怖くて泣いていた。
そんなオレを母親は、「怖くないのよ。何もしないから。」と言っては、優しく抱きしめてくれた。あれは、今思えば・・・、母親にも見えていたんだろうか。
それから、たらい回しにされた親戚の家でも、時々見つけて、うっかり口走ってしまって、気持ち悪がられた。それから、オレは誰にも言ったことは、ない。
「ボケッとしとらんで、さっさと見に行け!」
有無を言わさないじいちゃんの言葉に逆らうことすら出来ずに、オレは立ち上がった。
恐る恐る、廊下を軋ませながら、自分の部屋へと歩く。
確かに、周りの空気の色が違っている。
厚い、脱脂綿に水を含ませた様な、そんな感覚に襲われた。
誰も居ないはずのオレの部屋から、微かにキーボードを打つ音がカタカタとしてくる。
引き戸になっている部屋の戸に手をかけた瞬間、悲鳴のような声が聞こえた。戸にかけた自分の手が、全身が金縛りに合ったように、動かなくなった。
膨れ上がった空間を、部屋の向こう側に感じた。動かなくなった自分の右手を、どうにか動かそうとして、必死にもう片方の手を近づけようとするが、金縛りにあった自分の身体は、重力がのし掛かったかのように重く、押しつぶされそうだった。
じいちゃんを呼ぼうとしても、声が出ない。熱い固まりが、オレの身体を通り抜けていくような感触を覚えて、吐きそうになった。一瞬だけど、その女の感情が、オレの全身に流れた。悲しみ、悔しさ、辛い恋。そして、驚いた事に、昼間見た、アイツの顔だった。
激しい鼓動を感じ、呪縛から逃れると、やっと息が出来るようになり、オレは思いっきり叫んだ。
「まだまだ、だな。航太。」
「じ、じじい・・・、いたんなら、た・・、助けろ・・・。」
部屋の前で力無く倒れ込んでいるオレを見下ろしながら、喋っているじじいにムカつきながら、オレは全身から力が抜けていくのを感じていた。
それでもどうにか、柱に捕まりながら自力で立ち上がり、今ではもう既になんの気配も感じない自分の部屋の扉を開けた。
「うっ・・・」
思わず、口を押さえたくなる程の臭気に2~3歩後ずさりしてしまった。
「感じるか?航太。」
「くせぇ・・・。」
「死人の臭気だ。ここに居たヤツは、死んでからまださほど時間が経っていない。どこでこんなの拾ってきやがったんだ?」
「知らねぇよ!」
「何が見えた?」
じぃちゃんの目は、いつになく鋭く光っていた。「飛び込んで来ただろ?その時に、何が見えたかって、聞いているんだ。」
オレは、目を瞑って思い出そうとした。
「悲しみ、失恋?男の顔!オレの知っている、同じ学校の男の顔だ。」
「見て見ろ。」
じぃちゃんが指さした先の、パソコンを見てみた。
開いた覚えのない、メーラーのメールボックスが点滅していた。それは、メールが来たことを知らせる点滅だった。
新規メールを開くと、そこには、男の名前だけが、示されていた。
「 鷹東 瑞樹 」
「誰だ?」
じぃちゃんが、オレに聞く。知らねぇよ。オレは、首を横に振るだけだった。
「あほんだら!同じ学校の男の事だろうが!明日、学校に行ったら、調べて来い。」
「え~~~~~!ヤだよ!これ以上関わり合いたくないよ!」
心底、そう思った。霊体験なんて、もう懲り懲りだ。
言った側から、じじいのゲンコツが飛んだ。
目は、いつもの濁った目じゃねえ。
「航太、オマエはもう関わっているんだよ。これを自分で片づけない限り、オマエはあの女の子に取り憑かれたままになる。」
「じぃちゃん・・・・、オレ、怖い・・・・。」
「ドアホ!一辺死ね!」
「これが、寺の住職の台詞かね・・・・。」
夕飯の支度をしながら、もう一度じぃちゃんに、訪ねた。
「なあ、オレあそこで今晩も、寝るんか?」
「後で、札を作ってから、部屋に貼っとけ。」
札ぁぁ~?!魔よけの札を作るのは、オレの役目だった。いつも、バイトだと言いながら大量に作らされていた。
でも、あんなん、うそっぱちじゃん!
「あんなんで、効く訳ないよぉ。じじい~・・・・。」
「効く、効かない、はオマエの力次第。ちゃんと護摩も炊けよ。」
オレは、はっっっっきり言って、オカルトは好きじゃねえ。
自縛霊も、浮遊霊も、いつも近くに感じるから、シャレになんねえ。
世のオカルト好きってのは、実際自分で体験してみればいいんだ。どんなに怖いものか、全員知りやがれっ、てんだ。
見ようとすれば、道の端に座り込んでいる男や、路地の陰に潜んでいる怪しげな物達を見ることが出来る。いつからか、なんて覚えていない。
父さんと母さんが死ぬ前から、見えていたのは、確かなことで。
「なんで、死んじゃったんだよ・・・。」
母さんは、確かに見える人間だった。おぼろげに覚えている。部屋の隅、公園の陰に時々現れる、そいつらを見つけると、指を交差して、呪文を唱えていた。
すると、奴らは、消えていなくなっていった。
今の今まで、そんな事は、忘れていた。母さん・・・。
死に神すら、見ようとすれば見えてしまうオレは、どうすればいいんだよ。
ブツブツ文句を言いながら、護摩を焚き、札に念を入れる。
「ああ~、また来たらイヤだよ~。ちくしょー!あの男が鷹東瑞樹っちゅ~なら、何がなんでも、聞き出してやる。」
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