それでも月の夜には愛が降る 21

こんにちは。
忘れ去られているかもしれない、日向夏姫です。
やっと、更新する気持ちが・・・。

しばらく更新できず、ネットから離れていたら、コメント数が2000とかありました。
もちろん全部スパムです。
私は、コメント削除する為に書いているんじゃないんだよ・・・とほほ。。。

そんなこんなで、暫くコメントを外すことにしました。

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 右の手を何度か開いては閉じ、準は苦笑していた。
 ドラマの中のリョウを現実と重ねている自分に、苦笑していた。
 先日、突然尋ねてきたリョウを思い出す。
  
 オレの言い出した言葉が切っ掛けで、何も話さなくなったリョウは、急に立ち上がり身支度を始めた。
 「帰るのか?」
 「明日、早いじゃん」
 「そ、か」
 脱ぎ捨てたジャケットを掴むと、玄関口へと歩き出すリョウを目で追う。「冷蔵庫に何も入ってなかったぞ。ちゃんと食えよ」と振り返らずに台詞を残して、靴を履く音が聞こえてきていた。
 オレは掴んでいたプレステーションのコントローラーを投げ捨て、リョウの後を追った。
 「待てよ」
 玄関先に立ちつくした儘、軽く瞬きをするリョウの腕を掴んだ。別段驚いた表情も現さずにオレの掴んだ肘を見つめるリョウ。
 「飯作りに来ただけかよ。そんなん言いに来ただけかよ。違うだろ」
 じっと、オレの顔を見つめただけで、何も言わないリョウをぐいっと引き寄せた。ちがうだろ?こんな事しにここに来たんじゃないだろ?
 「離せよ。マジ、帰るんだから」
 ゆっくりと、オレの手を解きドアに手を掛け、外にでようとするリョウの手を掴もうと、そのまま勢いで玄関の外に飛び出る形になった。バタンとドアが閉まる。静かな空気だけが辺りに漂っていた。冷たい空気に突然さらされた皮膚が総毛立つ。
 「なんだよ」
 冷えた空気に、リョウの小さく呟いた口から、白い息が立ち上がる。
 「帰るなよ」
 マンションの廊下に囁きが響いていく。突き刺さる冷たい外気から守るかの様に、準がリョウを抱き締めた。「帰るなよ......」右手で、リョウの柔らかな髪を掴む。首筋に暖かなリョウの息がかかる。廊下の壁にそっと押しつけ、静かに唇が寄り添って行った。繰り返される口づけ。深く、浅く、ついばむ様なキス。囁きが、軽い喘ぎに変わっていく頃、やっとリョウが言葉を発した。
 「寒い」
 後ろ手で、部屋のドアを開け、リョウの手を繋いだまま部屋に入って行く準には、リョウの姿しか映っていなかった。
  
 リョウを自分の物にしたかった。ただ我武者羅に誰にも渡したくなかった。だから、リョウの告白は、ショック以外の何者でもなかったさ。
 オレ以外の男と幾人もの男と関係を持っていた、そんな告白なんて聞きたくなかった。でも、それ以上にリョウは傷ついていて......。精神がはじけそうな、リョウを我武者羅に欲していた自分を情けなく思って。
 助けられるなら、助けてやりたい。それも本心だけど、逃げ出したいのも本心だった。ドラマのオレの役は、情けない程オレにシンクロして、置いて行く事を少しでも思ったら、リョウは死んでしまうのかと感じたら、オレは、堪らなかった。
 硬直した手を見つめながら、決心を固める。
 リョウを掴まえるなら、オレは決心しなけりゃなんない。迷いは、オレ達二人を死に追いやる事を、確信せざるを得ない。
 そうさ、リョウの居ない世界になんてオレは意味なんて感じない。
  
  
 ドラマの打ち上げが済み、本格的にコンサートが始まった。
 少し、緊張しているリョウ。何度、ツアーを繰り返しても慣れることなんか無い。始まる前のこの緊張感がオレは好きだった。
 楽屋のドアがいきなり開いて、佐上が強張った形相で入って来た。その顔を見るだけで、オレ達は「只ならぬ事」が起きたことを知るには十分だった。
 「悪いが、みんな席を外してくれないか」
  メイクさんや、スタイリスト。数人が同じ部屋に居たが、佐上の一言で黙って出ていった。「何か、不味いこと」が起きたらしい事を理解して、誰も何も喋らず、出て行った。
 皆が出ていった事を確認すると佐上は、粗末な白いテーブルの上に雑誌を投げ置いた。
 「なに?」
 まだ上半身、裸の儘のオレは、佐上が乱暴に投げ捨てた雑誌を拾い上げた。
 「すっぱ抜かれた、とでも言う気か?準」
 声が怒りの為、震えていた。
 黙った儘動くことが出来なくなったオレの横にリョウが寄って来、オレの肩越しに広げられたページを覗き込む。息を飲むリョウの声がまるで電話の向こうから聞こえて来るように遠く感じた。
 『これもネタ?』と大きく見だしが出たスクープ写真に写っていたものは、間違いようもなく、オレとリョウが抱き合って、唇を重ねている瞬間を撮ったものだった。ぼやけた写真が尚のこと真実味を帯び、いみじくもオレの右手は、リョウの髪をまさぐっていた。
 オレの、マンションの廊下。
 そのショットの下には幾枚もの、オレとリョウの写真が、連なっていた。スーパーの紙袋を抱えてオレの部屋に入って行くリョウ。携帯を落とすオレ。ドアが開いて、姿を現すリョウ。そして、抱き合うオレ達......。
 震えている指が、全身に走って行く様だった。隣にいるリョウは、その週刊誌を掴み、オレから取り上げ......、同じように震える手で、抱きかかえる様に、屈み込んでいった。
 「オレが......、オレが......」
 目を見開いたまま、オレを見上げて声を挙げるリョウ。
 「お前のせいじゃない!」
 態と、リョウを見ないように、あいつの言葉を遮るオレ。
 「じゃあ!誰のせいなんだ!」
 怒鳴り散らす、佐上の声。
 一瞬水を打ったような静けさ。誰も口を開かない。只、睨み合うオレと佐上の間に緊迫した空気が流れる。どちらも目を逸らそうとはしなかった。
 「オレが、悪い」
 ポツリと呟くリョウ。
 「言うな!悪くなんかない。そうだろ?佐上さん」
 目一杯の虚勢を張って、なんの得が有るかなんて知った事じゃない。自分の声が震えているのも自覚している。だから、どうしたっていうんだ。
 「もう、出回っているんだ。昨日の夜中にゲラがすり替わったんだろう。既に何人かの記者らがやって来ている。お前達をどうやって逃がしたらいい......」
 最後の言葉はオレ達に言っているというより、自分に言い聞かせているかの様に感じた。佐上はオレ達を逃がそうとしている。
 「オレは、厭だ。ライブが始まるんだ」
 「リョウ!」
 佐上に、縋る様に掴みかかるリョウを、佐上が怒鳴り飛ばす。
 「厭だよ!オレはファンの前で歌いたい!」
 こんなに激しく佐上に抵抗を見せるリョウを今まで見たことがなかった。オレ達のスクープ写真が今朝から出回っていて、ファンもきっと知っているだろう。それすら気にしないリョウのステージにかける気持ちを、オレは今初めて知った気がした。
 「リョウ、お前は平気なのか?」
 佐上に掴みかかるリョウに、オレは問いかけた。佐上の腕を掴んだまま、オレを振り返るリョウの表情は、苦痛というより、悲しさを現していた。詰めかけてくる記者から逃げるよりも、歌いたい。同じように囲まれて、逃れれれないのなら、ファンの前に立ちたいと言っているように思えた。
「平気なのかよ、リョウ」
「何が?写真を撮られたことかよ!もう遅いんだろ?逃げたって同じじゃないか。オレはもう会場に入っている、オレ達の歌を聴きに来ている人の前で歌いたい。......、準。いいだろ?もう、焦ったって、同じじゃん」
 それがリョウの本当の気持ちなんだろ?
 「佐上さん、オレもステージに立ちたい。ファンだってもう知っているんだろ?これのこと。だったら逃げたくない。一曲でもいいから、歌わせてくれないか?」
 お座なりの溜息をつく佐上は、ちょっと呆れた様な顔を見せたが、直ぐさまにやりと笑みを浮かべた。
「そう言うだろうと想像していたよ。なんとなくな。お前らはそういう奴らだ。いいか?10分だけだ。それ以上待てないからな。リョウ、準。分かるだろ?」
 オレ達は、自分のギターをそれぞれ持つと、ステージへと階段を上って行った。
 多分、最後になるだろうステージへと。
 
 

つづく
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