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キャラメルアイス&クッキーバー (1)

2007年7月20日 日向夏姫 | | コメント(0)

 夏休み。
 だからといってオレには何のイベントもない。
 ま、せめてバイトの時間を増やすことくらいだろうか。
 ため息を思わずついてしまうオレ、田中市乃は高校三年生。巷の高校三年といえば受験真っ盛りだろうが、さほど受験校ではない、というか、全く受験校でない俺らのガッコは三年生だからといってあくせく勉強に励むやつなどいなかった。
 そこが、俺らのガッコのいいところである。
 


 今日も葵がオレの部屋に遊びに来ている。別にオレの部屋は寮でもなければたまり場って訳でもない。だいたい、オレが一人で住んでいることだってクラスの連中のほとんど九割は知らないはずだった。知っていたところで、オレんちに入り浸るのは、こいつ位しかいねえっつーのよ。
 暑さのせいで、なんか無性に腹がたってくる。
 バカ面して葵は「笑う犬の冒険」のビデオを見ている。
 イライラしている割には、オレってば時々一緒に笑ってしまう。
 ため息はいろんな意味をも含めているってもんだ。
 エアコンは、派手な音を立てる割には、一向に涼しげな風を送っては来ない。エアコンと呼べる以前の代物だから、文句も言えはしないんだが。
 質屋の店先でこれを見つけ「アンタにゃこれで十分」と言い放った母親を今更ながらにうらめしく思うぜ。うらー!
 ガタガタとうるさく音を立てるクーラー(エアコンとは言えない)に時々ビクつく葵はちょっと笑える。
 「オメーの家に帰れば、ヒンヤリ冷てー風の出てくるエアコンがあんだろがよ」
 ってオレの足下に頭を乗せている葵の後頭部めがけて蹴りを一発おみまいしてやる。聞こえないくらいの小声で悪態をつきながら葵が口をとがらせて文句を言った。
 「それって、帰れってこと?オレ邪魔?」
 「う......、別にそーいうんじゃねーけどよ」
 別に葵は邪魔じゃない。
 特に話をするわけでもなく、ヤツはヤツで好きなことをしていて、オレも自分の好き勝手にやっている。たまに一緒にビデオなんか見て、ばか笑いすることも最近では多くなってきていた。
 そこに葵がいること。
 オレは慣れてきてしまった。
 なんかヤバイ感じ...。
 
 「別に邪魔じゃねーけどよ、好きこのんでこの狭い部屋で暑苦しい男二人でいることねーじゃん」
 「それじゃ、イッチ俺んち来る?」
 「マジ、パス」
 それだけは勘弁してほしかった。葵のかーちゃんに会った事はねーけれど、今更どの面さげて会えってゆーのよ。
 「初めまして、田中です」
 とか挨拶すんの?
 マジ、パスって。
 この焦りは葵とセックスした事実があるからこそなんだって、ちょっとは自覚ある。
 「あーー、暇だー!」
 俺は両手を天井に向けたままベットに倒れ込んだ。すかさず葵がベットにはい上がり俺に覆い被さる。俺の顔に両手を添えて、軽くキスした。
 「あっちーってのよ、お前」
 「まあ、確かに。今日はヤル気になんない?」
 小首をかしげて、それでも俺の意見に同意する葵。確かに暑いのは暑いが、お前のまだ見たことの無いかーちゃんの顔がちらついて、ヤル気にはならなかった。
 「ねーよ。どけっ」
 かーちゃんの顔もそうだったが、ただでさえこの暑い部屋の中で、セックスしてこれ以上体力消耗したくなかったのが一番の理由だと思った。
 「じゃあ、どっか涼しいとこ探して外に出ようか」
 葵がすっくと立ち上がり俺を見下ろした。こういう変わり身の早さも葵の葵であるいいところだ。
 「めんどくせ~」
 未だベットに倒れ込んだまま起きあがれないでいる俺に向かって、葵がメットを投げつけてきた。
 ゴンっと鈍い音。
 「てめー!ぶっ殺す!」
 「早く、行くよ」
 
 そんな訳で、俺達は外に涼みに出かけた。
 
 「お前、金持ってる?」
 「んーと...」
 葵がそうやってジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
 「千二百...五十三円」
 「んだよ、その五十三円ってのはよ」
 「コンビニの釣り。イッチはいくら?」
 「四百円」
 「ダリー...」
 まさに、だりぃわ。
 二人あわせて千六百五十三円。なんか食えるかな。
 現実にぶち当たって俺らは歩道の上に座り込んだ。空は青々、雲は白い。そして俺らはビンボウ。
 くっそ、暑いっつーのよ......。
 「おねーさんでも、ナンパしねぇ?」
 やる気のなさそうな声の割には、やけに気合いの入った台詞を葵が言い出した。
 「ナンパ~?だりぃ...」
 「一発やって、飯おごってもらうの。どうよ」
 「...、お前って最低なヤツな」
 お得意の口をとがらせた顔で「そうかなー」なんてほざいている。こいつの貞操観念ってどんなもんやって聞いてみたいね。
 つーか、誰に聞くのよ。
 自分に自分で突っ込んで起きながら、俺自身にもそんな大層なもんは持ち合わせていないってことに気がついていた。
 
 葵が、空を見上げながらいつもの平坦な口調で話し始めた。
 「最後にヤッタ女がさぁ、すっげーかったのよ。ぬるぬるのべとべとでさ、俺のモモんところまでびっしょり濡れちゃって、こいつ水分取りすぎなんじゃねーのって、マジ思ったよ」
 「おめー、それって別の言い方で言うと『感度いい』って言うんじゃねーの」
 「そーとも言うのかもしんねーけど、俺はまったりと濡れるくらいのが好きだな」
 へラッとした顔で言う葵に一発けりを入れてやった。
 「いてー」
 尻をさすりながら、下からにらみ付けてくるが、俺の知ったこっちゃねーっつーのよ。万年女日照りの俺によくもそんな事言えるな、くそガキが。




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