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キャラメルアイス&クッキーバー (2)

2007年7月20日 日向夏姫 | | コメント(3)

 「あー...、そっか」
 間の抜けた声で葵が言う。
 「イッチ、女いないんだったもんね」
 「うるせー」
 「もてそうなのに、なんでだろ」
 「おめーと連んでいたんじゃ女も寄って来ないつーんだ、ボケっ」
 「あ、ひでー言い方。じゃ、俺ちょっと女調達してくっから」
 ちょっと、待て!どうしたんだ、その行動力は、どこから来るんだ。いつものぼーっとした葵はどうしたんだ。
 俺は焦った。
 いくら暑いからって、とうとう頭にまできたのかと。俺が止める腕を振りきって葵はにへらっと笑うと立ち上がり、ぱんぱんと尻をはたき辺りを見渡した。
 マジ、やるきだった。

 いや、焦っているのにはもう一つ理由があった。葵の口から女の話が聞けるとは思ってもいなかった。別に正真正銘のホモだとは信じていたわけではなかったが、女とセックスできるんだと思うと妙にリアルな感覚におそわれる。
 どんな顔して抱くんだろうとか。
 イク時もやっぱり同じ声を出すんだろうかとか。
 こんな事を考える自分の思考回路に、焦った。どうしたんだ、俺は。別にいまさら葵が両刀だって知ったからって、女を抱くイメージがリアルに想像できたって、だから、どうしたっていうんだ。
 「あーーー!なんだって言うんだよっ!だりーーっ!」
 頭をかきむしって叫んだ。だがそんな俺を、ものともせずに葵はスタスタと歩道を歩いていく。
 脱力が体中を駆けめぐる。
 ま、いっか...。
 ポタリと俺の汗が地面に落ち、アスファルトを濡らした。
 久しぶりに女とやれる。そう思うことにした。すると、なんとなく下半身がわくわくしてくる。ああ、なんて無節操な俺の下半身、いとおしいぜ。
 しかもおねーちゃんとは、まだ経験がなかった。葵はあるんだろうか...。あ、また少しへこみそうな感覚が襲ってくる。いったい、どうしちまったんだよ、俺。
 額に流れる汗をぬぐい、視線で葵を探す。葵は腰に手をあてたまま一点を見つめていたかと思うと、急に俺に振り向き、にへらと笑ったかと思うとスタスタと戻ってきた。すとんと俺の横に腰をおろすと耳打ちしてきた。他に誰か聞き耳たてている人間などいはしないのだが。
 「あの、金さん銀さんどお?」
 なんだと、いくら日照りだからって100のババァ相手にするほど飢えてねーつうの。ふざけんなって葵に振り返って見ると、葵の指さす方向には金髪のロングヘアーと銀髪のショートカットの高校生二人組が歩いていた。
 高校生じゃねーかよ、おねーさんはどうしたんだって。
 だが、確かに金髪と銀髪の二人組は目立ってかわいかった。
 「金さん銀さん、ね」
 「どっちが好みよ、イッチ」
 小麦色に日焼けした金髪ロングと、透き通るほどの色白銀髪か。俺は真剣に考えてしまった。
 「俺は、色の白い方が...、おい、待てよ。最後まで人の話を聞けってーの!」
 俺の話が終わるのを待たずに葵は二人組の所へふらふらと近づいていった。
 その行動力はどっからくんのよ。
 俺はこう見えてもまだナンパを経験したことがなかった。
 恐る恐る葵の後をついていく。まんだか気恥ずかしい。数歩後をついていく俺は視線をどこに持っていけばいいのかわからずに、道ばたに落ちているアイスクリームの抜け殻を見つめていた。
 葵は飄々とした風貌だが、よくみればその金髪に白い肌、結構、男前だと思う。女なら俺なんかよりも葵みたいなヤツがもてるんじゃないかって思う。
 「えー、でもぉ...。これからブクロにライブ見に行くんだよねー。ね、キョウコ」
 「うん。...でもぉ、ちょっとならいいじゃん?アユちゃん今日くるかどうかわかんないし」
 脳天から出しているんじゃねーのって、疑うような声が聞こえてくる。葵はどうやら交渉に入っている様子だった。しかし、久しぶりに聞く。こんな1オクターブも高い声。
 やはり、ワクワク、ドキドキが止まらない。
 いっつも聞こえてくる声は、ヤローの声ばかりだったから、ここ二年以上はこんな声は聞いた事がなかった。
 「どっかで冷たいもんでも食わねぇ」
 葵の交渉は成功したみたいだ。こいつにこんな才能があったなんて。
 で、誰が払うんだよ、その「冷たいもん」ってよ。金ねーからナンパしたんじゃねーのかよ?
 「そっちの人はなんていうの?」
 銀髪の『キョウコ』って呼ばれていた方の子が俺を指さし葵に聞いている。名前くらいいくらでも教えてやんのに、なんで俺に直接聞かねぇのって。
 「イッチ、そんな怖い顔していたらダメだって」
 「あはは、おかしい~」
 なんもおかしくねーって。
 「こっちはね、市乃くんて言います」
 「怒ってるの?」
 「え、なんで」
 「だってさっきから、ずーっとココにしわ寄ってる」
 ぶっ!もう、我慢も限界とばかりに葵が吹き出した。銀色の方が俺のマユを指さしたまま、涙流しながら爆笑している葵をきょとんとした顔で見つめていた。
 「どうーしたの?葵くん」
 「ごっ、ごめん。いや、イッチのこんな顔見たの初めてでさ...、ひっ、ひ~~。笑うの我慢、で、できねぇーっ」
 「うっせー、笑うな、このタコっ」
 俺は真剣にむかついた。ひざ蹴りを食らわしてやっても、まだ葵は涙を流している。俺は慣れてねーんだっつーのよ。
 「ね、冷たいもの食べに行くんでしょう?」
 金色が葵を見上げながら言う。ひらひらのスカートが風に舞う。
 「あ、ちょっと待ってて」
 口に手をあてながら葵は腰までずり落ちたジーンズのポケットをじゃらじゃら言わせて俺を見る。
 葵の白いタンクトップからあらわに出ている、腕についた薄い筋肉が上下するのだけ俺は見ていた。どうすんだよ、俺ら金ねーんじゃん。
 物も言わずに葵はひらりと方向転換すると、目の前のコンビニへ入っていった。何をするのかと俺と金色銀色は葵の行動を見つめていた。
 数分もすると葵がゆらりと現れた。手にはコンビニの袋。
 「どれがいい?」
 がさっと広げたそれの中には四種類のアイスクリーム。
 文句も言えないって顔した女の子達は爆笑している。まさか路上でアイスクリームとは俺だって考えていなかった。やはり、何をするにも謎の多い男、葵だ。
 それぞれ選んで、俺には最後のお残りが回ってきた。別にどれでもいいから文句なんてねーけどよ。
 「あのね、さっき話したライブなんだけどね、ブクロに格好いい男のこがいるんだ。私もキョウコもその子のファンなんだけれど、葵くんも結構イケてるよね」
 「そ~~お~~」
 相づちを入れたのは俺だった。急に振り向く金色。
 「エミの好きなタイプだよ、葵くん」
 へぇ~、やっぱりね~とうなずくが、金色はまだ俺をにらんでいる。俺、なんか悪いこと言ったか?頬をぷっくり膨らませたその顔も、なかなかイケてるって俺は思うぜ。
 急に軽やかな携帯の音が鳴り出す。全員自分の携帯を探すが、すぐさまそれの持ち主は発覚した。エミ(金色)がきれいに装飾を施した携帯を取り出し、すっとんきょうな声を張り上げたからだ。
 「わかったー!すぐ行くね」
 くるんと向きを変えた金色は銀色の腕を引く。何か大変な事でも起きたのか?
 「大変!キョウコ!アユのお兄ちゃん来てるって。今、二人で来たって!」
 「うっそー!マジ?噂だけで誰も見た事なかったあの「出張」に行ってた?」
 「そう、その!」
 バタバタと二人はひらひらスカートを手ではらい手に手を取り走りだすが、途中で銀色が戻って来て俺にキティのついた名刺を渡す。
 「ごめんね、急用ができちゃった。今度電話して」
 「早く、早く」と銀色を手招きしている金色はかなり焦っている様子だった。その理由は「アユのお兄ちゃん」が来たらしい事は会話でなんとなく分かったが、つい今「葵くんも結構イケてる」と言っていた話はどうなったんだ。
 いや、それよりココに残された俺らは......。
 華やいでいた空気が一気になくなり、残された俺の前には見慣れた男の顔と、空っぽのコンビニのビニール袋だけ。
 「イッチ、そのクッキーバーちょっと食わせて。俺のキャラメルのやつのやるから」
 
 俺は何も言わず葵の背中に蹴りを入れた。
 葵は、笑っていた。
 
 空は青い、雲は白い、俺らは一文無し。
 こんな日もあっか...。
 
 





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コメント(3)

夏姫 :

何かコメントありませんか~~

サチ :

面白かったです~。
葵くんが女とヤってたとは…ちょっとショックでした~^^ゝ
できれば二人にはちゃんと恋人同士になってほしいです!
これからも楽しみにしてます♪

日向夏姫 :

サチさん、感想ありがとうございます。
葵ちゃんは、バイなのか?という疑問をのこしたまま・・・。
すみません。
今、続きを書いています。
ですが、風邪でわたくし、ダウン中でした。
頑張ります。

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