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ウワサノラヴァーボーイ

2007年7月20日 日向夏姫 | | コメント(6)

 葵のからみつく指が俺の肩を掴む。
 「う...ん...。イッチ、あ...」
 数日ぶりにいい天気だっていうのに、俺達は部屋にこもりせわしく腰を動かしていた。なんでこんな事になったのかなんて、始まってしまえば理由なんて忘れてしまった。
 きつそうな顔をする葵の眉間に縦皺がたつ。
 「痛く、ねぇ...の」
 「大丈夫、すっげ、キモチイイ」
 白く吐き出される息。蒸気した頬。粘膜が刺激を加えて、快感が頂点にまで達する。
 「俺、もう、イク」
 「イッチ、まって」
 「待てねぇっつーの」
 白い背中を後ろから抱きしめ、骨張った葵の腰をおもむろに引き寄せた。感度いいんじゃねーの、こいつ。絶妙のタイミングで締め上げてくる。
 「ん...、はぁっ」
 ああ、やばい。今日も俺の方が先にイッテしまった。今回と言ってもそう回数がある訳じゃないが、一度も葵より後にイクことがない。
 それって、ちょっと悔しい。
 挿入部分を引き抜くととろりとした体液が流れ出る。葵の俺を飲み込んでいた部分は少しだけ血がにじんでいる様子だった。
 「おい、お前、血ぃ出てるって。やばくないか」
 俺は焦って飛び起き、確かこの辺に絆創膏とか入れてあった箱があったはずだと、素っ裸のまんまテレビの横にあるカラーボックスを漁った。
 「なにしてんのぉ」
 気の抜けた声が後ろからする。
 「何って、お前のケツになんか、塗っとかないとやばくねぇの」
 「舐めときゃなおるでしょ」
 「どーやって舐めるんだよ、テメーが自分で舐めるのかよ」
 「俺には無理」
 「じゃ、誰が、だよ」
 人差し指が俺を指さす。冗談じゃねぇっしょ。確かに俺に責任があるかもしれねぇけど、なんでお前のケツ舐めて治すのよ。
 「ひゃはは」
 しわくちゃになったシーツに横たわり、少しぐったり気味の葵が額に一筋金髪を垂らしながら、引きつった笑いをしてみせた。
 がさごそと、俺はかなりマジになって軟こうを探した。どっかにオロナインかなんかあったはずだ。はたしてそれが効くのかどうかは分からないけれど、何も塗らないよりもマシだろう。そして、小さなチューブを見つけた。
 「シリ、見せろ」
 「いや~ん」
 身をくねらせて葵が毛布にくるまる。
 「キショ悪ぃ事してんなって。見せろって、ほら」
 実際の所、男同士がシリの穴に軟こうを塗る事自体、キショ悪い事なのかもしれないが、それは今更言いっこ無しなのだ。
 確かに、亀裂が走り血がにじんでいた。痛いはずだと俺は思う。
 「葵、痛かったらそう言えって」
 「...、うん。でもさ、痛いっていうより気持良かったよ。痛いのか感じちゃうのか、紙一重ってやつ?」
 マゾか、こいつ。って心の中で突っ込んだ。
 人差し指で葵の亀裂にそっと軟こうを塗ると、くすぐったいのか葵は身をくねらせて笑う。
 「ねえさぁ、イッチ」
 「ん?」
 「俺とマジでつき合わない?」
 俺は、軟こうを塗る指が瞬間止まってしまった。俺と葵はどういう関係なのかなんて、本当の所、考えたくないのが本音だった。
 「マジつき合うってどういうことよ」
 「不純同性交遊じゃなくって、愛のあるセックスがしたい」
 待て!おいこら、待て!その台詞を今の俺に言うな。たった今セックスし終わったばっかりなだけに、言葉につまる。そう来るのかお前!
 「愛のある、セックスぅ?」
 「そう、愛のあるセックス」
 「お前にはあるんかよ。愛」
 「...、あるよ」
 ぐちゃぐちゃに絡まった金髪がシーツの上に広がる。もう夕方近くなっているのかもしれない。差し込んでくる光が鈍くなり、葵の顔がひどく憂鬱そうに見えた。
 そんなマジな話されても、俺は困るのだ。
 愛があるとか、ないとか。
 「俺、最初っからゆってんじゃん。イッチが好きだって」
 だから、それが信じられないってーのに。
 「俺の言ってること、信じられないって顔してる」
 「ったりめーだ」
 「どう言ったら信じるかなぁ」
 のそりと起きあがる葵はシーツに手をついたまま、四つん這いになり俺の方へと近づいて来た。そしてそのまま広げた俺の両足、股にまたがる。
 じーっと見つめる視線はなんとなく薄気味悪い。こんな間近で葵の顔を見たことはなかった。ふさふさとした金髪は少し陰り、それでなくても男にしてはやけに白い肌が電気のついていないこの部屋の中で青白く見えた。
 濡れたみたいに光っているのは葵の瞳だけで、こいつが本当は男じゃなかったら、妖怪かとすら思えた。それほど、葵は男臭さが漂っていないのだ。
 男臭さどころか、人間臭さすら無いと言える。
 「ねぇ、イッチ。俺の話聞いてる?」
 「ん、ああ。聞いてねぇ」
 「どこ見てんのさ」
 「お前の顔。見れば見るほど、お前って綺麗な顔してんのな。でもなんか、人間臭くねぇっていうか...。よくわかんねぇけど」
 女みたいな顔をしているとかじゃないんだ。こいつの計り知れない不気味さはよっく知ってるし。こう見えてもケンカは強いんだよなぁ。
 「この顔は好き?」
 「はぁ?」
 「じゃ、俺のこと好き?」
 「マジ、面倒くせぇって。その話」
 少しむっとした葵はいきなり俺を押し倒し、馬乗りになった。
 葵の事好きかって聞かれた瞬間、俺ってば「うん」なんて返事しそうになってしまった。好きって聞かれたら、好きだと思う。
 「面倒くさいってなんだよ」
 「セックスしてんだから、そのくらい分かれって。重い、どけっ」
 ベットの端に葵を突き飛ばし、俺は冷蔵庫を漁りにいった。なんか今日のこいつはおかしくないか。いや、いつもおかしいんだけれど、いつにも増しておかしすぎる。
 「お前さ、今日アレ飲んで来た?」
 「クスリ?」
 「飲んできたんだろうな」
 葵は不適な笑いを浮かべている。なんだと、このヤロウ!飲んでないんかい。
 「飲んできたよ。そんなことと、今言ってること、関係ないじゃん」
 「勘弁してくれよ。なんで今更そんな事言い出すんだって」
 ペットボトルに直接口をつけてポカリスエットを飲み干した。
 真剣に考えた事なんてないっつーか、わざとその事には思考を停止させていたのに。つき合うのとつき合わないのと、何か今後の違いはあるんだろうかと、今俺は真剣に考える事にした。
 セックスがあるのと、ないのとの差かな。
 「おい、セックスがあるのとないのとの違いなのか?つき合うのとそーじゃねーのとって」
 「違うよ、そんなんじゃない」
 幾分低めの声で葵が答えを返してきた。そうじゃないと言うならば、それはきっと精神的な事も含まれるということだろうなと、さすがの俺も気がつく。
 だけれど、それは...。
 まだ俺は超えられないって言うか。葵は好きなんだけれど、最近じゃセックスも頻繁にしているけれど、それは愛とか恋とか、恋愛っていうか。
 頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。
 「もう、いいや~」
 にへらと笑う葵の笑顔が泣いているみたいに見えた。ひょっとして俺はなんかまずいことでも言ったんじゃないかと少し焦る。
 「葵?」
 トンとキッチンの端に俺はペットボトルを置いた。
 葵は返事をしなかった。そしてするりとベットから細い足をおろすと下着を着け始めた。それから下に乱雑に脱ぎ散らかした中からシャツを拾い上げ手を通す。別によくある風景なんだけれど、俺はやっぱり焦っていた。
 「葵」
 「なにぃ」
 いつもの葵だが、いつもと少し違う。
 「俺にどうしてもらいたいんだよ。つき合うって、今までとどう違うのかゆってくんない?」
 葵は困った顔をしていた。こいつの困った顔なんて見るのはもしかして初めてかもしれなかった。葵がどういう過去を持っているかは、少しなら知っているし、他のやつらより、少しは葵の事を知っているはずの俺だけれど。
 「今日は、クリスマスだって、知ってる?」
 葵は窓の外の薄明かりをぼんやり見ながらそう言う。そんな話をしていたはずじゃないのは十分分かっているんだろうけれど。
 「俺さぁ。クリスマスって嫌いだったの。でも今日はイッチが側にいてくれるじゃん」
 やっぱ、訳わかんねぇ。
 「ケーキ、買ってやろうか」
 別にご機嫌取りで言った訳じゃない。それでも、にっこりと笑う葵がなんか妙に可愛いと思えた。
 「俺、ケーキってあんま好きじゃない」
 「嫌いなんかよ!」
 「でも、二人で食うのはいいかもね」
 「どっちなんだよ...」
 別にケーキっていっても、ローソンでなんか甘いもんでも買う程度の話なんだが、今日はクリスマス。男二人でケーキを食ったって罰は当たらないだろう。
 表はいつの間にか小雨がちらつき、灰色の空がまるで脱脂綿を湿らせたかのように、重くたれ込めていた。パーカーの帽子をすっぽりと頭にかぶりぐるぐる巻きにしたマフラー姿の葵はもう鼻の頭を赤く染めている。
 俺も着慣れた革ジャンの襟をたてて小走りに外へと出た。
 
 階段の下で、ぱらぱらと落ちてくる小さな雨粒を顔に受けながら、葵は空を仰いでいた。葵の奇行は今に始まった事じゃないから、もうあえて「なにしてんの」なんて俺は声をかけない。
 「さみっ」
 声のする方に振り向き、俺を見つけると葵はまた何を考えていたのかわまんねー笑顔を浮かべる。さっきの続きじゃないけれど、俺はこいつとどういう関係なんかな。俺はまだその答えを出したくなかった。
 
 
 
 ちらちらと、もうすぐ雪に変わるよ、イッチ...。
 ほら、そらが、あんなにも灰色だ。
 
 ねぇ、イッチ。
 知ってる?
 つき合うとかそういうのってさ、好きな感情がこんなふうにあふれて来ることだと、俺は思うぜ。
 
 
 
 2002.12.25
 
 
 

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