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Night Mixer 4
2007年6月13日 日向夏姫 | 個別ページ | コメント(0)
まるで、ドラッグでもやった後のような感覚がする。
自分が自分じゃないような。
目が覚めたら、葵に言ってやろう。
って、何を。
わかんねーけれど。
そんな事を考えながら、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。次に起こされたのは葵の苦しそうな声でだった。まだ、外は暗く、何も映していないテレビの画面は砂嵐だった。横を向くと、狭いベットに二人、葵が俺に寄り添うように寝ていた。
「や......だ」
途切れ途切れの苦しそうな声。
起こした方がいいのだろうかと、戸惑う。
「う......ん......」
苦しそうな葵の声が、寒い部屋に微かに響いた。何か夢を見ているのだろう、固く瞑ったままの葵の瞼は閉じられていた。いつもこんなに苦しそうにこいつは寝ているのだろうか。
「父さん」
はっきりと、葵がそう言ったかと思うと、まるで自分の声に驚いたように目を開いた。俺と目が会い、ゆっくりとした仕草で葵は喉元に手を宛う。
「夢、見ていた。なんかゆった?俺」
「いや、なんも......うなされていたけどな。大丈夫か」
蒼白になった顔色は、どう見ても大丈夫そうではなかった。刺したという自分の父親の夢でも見ていたのだろう。人を刺すとこんな風に何年も苦しまなきゃなんないなら、俺、ナイフだけはやめておこうと誓った。何に......、コイツに。
「おい、なんか飲むか?」
青白い顔は血の気を失い、唇はかさついていた。葵はコクンと頭を縦に振り、指先を自分の唇へとあてがった。その指先が震えている事に俺は気が付いてしまった。
震える程の恐怖なんて俺は味わった事がない。少なくとも記憶にはなかった。
「ずっと、安定していた筈だった。それなのに、たったコレくらいの事で参ってしまうなんて、俺さ......」
「なんか、あったんか」
「今日、イッチん家来る前に電話があった。留守電に入っていたあいつの声を聞いた」
虐待されていた、っていう葵。それがどんなモノなのかは俺には分からないけれど、どんな感情が生まれて、そうなったのかまで俺には想像もつかないけれど、今、目の前の葵は小さなガキに見えた。可哀想だと思った。そう思われたくないって葵は言うけれど、正直、そうしか思う事ができなかった。
そっと、肩に手を回し、葵を抱き締める。
「よく、わかんねーけれどよ。しんどそうだな。いつも一人で苦しかったんか」
抱き締めた葵の肩先は震えていた。
「苦しかねーよ」
「ああ、そうかい」
他になにか気の利いた言葉なんて見つからず、俺は葵の震えが止まるまでこうして抱き締めているしか出来なかった。
「イッチ、俺のジーパン取って」
「ん?どこよ」
「乾燥機の近くに置いた。そんなかにさ、クスリ入ってるから、それくんない?悪ぃな......」
よっこらしょ。かけ声をかけ、俺はベットから這い出た。気温が一気に下がっている室内に全身が鳥肌立つ。そして自分だけ裸で寝ていた事に気付き、ヒーターのスイッチを入れる。微かな音と共に熱風が吹き上げる。
葵の履いてきたジーンズのポケットから白いのタブレットが並んでいる銀に光るシートを取りだした。水道の蛇口を捻りグラスに水を注ぐ。
「ほれ、これか?」
「サンキュ」
2錠取りだし、グラスの水で飲み干す葵を見ていた。
「俺のこと、面倒くさい奴とか思ってる?」
「別に」
別に、そんなこと思ってねぇし、お前の事、病気だとも思ってねぇよ。
そう、口に出して言ってやったほうが良かったんだろうか。
やけにベトついた身体が悪臭を放っている事にうんざりしている方が強かった。
「俺、シャワー浴びてくるから。お前、一人で大丈夫か?」
「時期、震えも収まるからへーきっす。いつもこんなワケじゃねーからな。言っとくけど」
「うっせーよ、早く寝ろ」
多分、その父親ってのがネックなんだろーが。そのオヤジの声を聞いただけでそんな風になるんならさ、それってやっぱ、まだ越えてねぇんだろ、葵。
腰にバスタオルを巻き付けたまま俺がベットの端に来ると、葵はもう眠っていた。
寝ている端に腰掛け、シルバー色に抜け落ちている葵の髪を撫でる。わけわかんねー奴だと思っていた。確かに俺に理解出来ない部分があって、そればっかりはどうしようもないが、俺から見たら、コイツはガキだ。
まだ十歳かそこいらのガキと変わらねぇガキのまんまだ。その頃の自分から成長出来ないで藻掻いているガキに見えた。可哀想って言うと怒るだろうけれど、ボキャブラリーの少ない俺にはそんな言葉しか浮かんで来ない。
「ガキはさ、守ってやんなきゃなんねーしな」
なんだか、捨て猫を見ない振り出来ずに、思わず拾ってしまった感情に似ていた。
金髪の捨て猫。俺んアパートに飯だけ食いにやってくる、そんな感じ。じゃ、何だ......。飯って俺か?
なんとも複雑な気持ちだった。
俺が金をくれないからってオヤジに虐待されているなんて、ホント馬鹿馬鹿しい言いぐさだ。
ま、しゃ~ねーか。
スエットに着替え、布団に潜り込もうとして、なんで男二人がわざわざ一緒に寝ることがあるのかと思い、寝ている葵を起こすのも気が引け、俺は床下にクッションを並べて掛け布団だけ掛けて寝る事にした。
聞き慣れた音楽で目が覚める。
「あ、起きたぁ?」
「あに、やってんだよ。朝からゲームなんてしてんじゃねーよ」
いつの間にか起き、俺の寝ている隣で葵がプレステをやっていた。この聞き慣れた音の正体はこれだった。
大きなあくびをしている俺に葵が目覚ましを突きつける。すでに十二時を回っていた。
「てめー!遅刻じゃねーかよ!起こせよ」
飛び起きる俺にケタケタ笑っている葵に一発蹴りをお見舞いしてやる。
「だって、俺が起きた時、既に十時だったんだぜ。イッチ気持ちよさそうに寝ているから起こしたら悪いかな?って思って......」
「思うな!お前もさっさと家帰って着替えろよ」
「ガッコ、行くの?」
「たりめーだろ。日数足りねーんだよ、マジヤバイの俺」
葵に怒鳴りつけながら勢いよく飛び起き俺は制服に着替える。葵はぼーっとしたまま俺を見ている。
「さっさとしろって言ってんだろ」
「俺、今日休むわ。センセーに宜しく」
マジ、むかつく!
「クソガキ!舐めんじゃねーぞ、こら!」
「ここで待ってるよ。イッチが帰ってくるの」
「待つな!帰れ!さっさと帰りやがれ」
鞄を手に持ち、それでも一歩も動こうとしない葵に人差し指を突きつけ俺は叫んだ。
「俺が帰って来るまでには、いなくなってろよ」
外は晴れ晴れ、俺は頭が痛かった。
END
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