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オレンジジュース

オレンジジュース

2007年6月12日 日向夏姫 | | コメント(6)

 「カフェオレとオレンジジュース。どっちがいい?」
 転校初日のこの男は、俺ん家の冷蔵庫を勝手に開けて、そう口走った。
 「っていうかさ、お前、何?」
 「何って?」
 「なんで俺ん家いるの」
 「イッチんチが俺のマンションの隣だから」
 勝手にオレンジジュースを出し、適当なグラスにつぎながらこの男は俺を「イッチ」と呼んだ。
 「おめー、何よ。そのイッチって」
 「市乃くんのことです」
 「だぁ~?」
 力無く、言い換えればだらしなく俺は椅子にへたり込んでしまっていた。
 

 思い起こせばあれは遡ること半日前、俺は今日遅刻した。
 ザワザワといつになく五月蠅い自分の教室に入ると俺の席にこいつが座っていたのだった。
 「お前、誰よ。ここ俺の席」
 「......」
 何も答えない金髪に近い髪の色をしたこの男はトロンとした目つきで俺を見上げていた。ラリって間違えて俺の席に座っているんだと錯覚した。そして、隣からの声。
 「転校生で~す!イッチ、今日遅刻したから席は没収されました~」
 んだと!ふざけんな!
 そりゃ、ここん所バイト続きで学校にはあんまり来ないどころか、遅刻ばっかでセンコーがなんだか言っていたけれど、本当に没収されるとは思ってもいなかった。それも、こんな形で。
 「どけ」
 「やだ」
 「どけ」
 「やだ」
 「んだと、こらぁ!」
 拳を振り上げた途端、マブの小泉にその腕を止められぎゅっと目を瞑る見知らぬ野郎が身を縮めるのが目に入った。
 「市乃、転校生には優しく。だろが」
 渋々上げた手を下ろしはしたが、視線は金髪野郎に止めたまま小泉に言った。
 「んじゃ、俺の席は何処よ」
 クラス中が一斉に指さしたその先にあるのは教壇のど真ん前の席だった。
 「ラッキー!イッチ」
 誰かが叫んだ。
 俺は目眩がした。
 
 そして俺は一番前の席でどうにか一日を寝て過ごした訳だが、その眠りの度に脳天をセンセーに直撃され大事な睡眠時間はことごとく金髪野郎のせいで奪われたと言って過言ではなかった。
 「あおい」
 昼休み近くになってから、金髪野郎が俺の机(ああ、一番前の特等席さ)の前に立ち、そう一言言った。なんの事かさっぱり分からなかった。
 「は?」
 「俺、葵っていうんだ」
 「あっそ」
 「飯、おごるから」
 机に突っ伏したまんましばらく俺は動かなかったが、「おごるから」の一言でついうっかりと視線を上げてしまったのだ。それがそもそもの事の始まりだったんだろうか。
 
 
 そして、今の瞬間になる訳だ。
 俺は断じて「俺の家に来ない?」などとコイツを誘ったつもりはない。それどころかコイツの正体ですら「金髪の葵」程度しか知らないのだ。
 確かに昼飯、とはいえ単にやきそばパンと牛乳くらいのモンを買って貰い、屋上で食ったりはした。だが、そんなもんでこんな事になるって普通思うか?
 「ホントにイッチは一人暮らしなんだ」
 昼の間に幾つか言葉を交わした。だけどそれは「どこに住んでいる」とか「家族何人?」とかありふれた話題だった筈だ。
 「一人暮らしじゃね~っつ~のよ。人の話を良く聞け。オフクロと姉貴はロンドンに在住中でオヤジは大阪に単身赴任。だから俺はここのアパートに一人で暮らしているってわけ」
 オレンジジュースをジューっと音を立てて飲み干した葵の目は不信感に燃えていた。
 「嘘ばっか」
 「どこがだよ」
 「ロンドンに在住中していて、父親も単身赴任ならなんでイッチはこんな汚いアパートに一人で住んでいるのさ」
 「家は貸してあるの。そんでその家賃が俺の生活費な訳。いちいち聞くなよ、人んチのプライバシーをよ。悪かったな汚いアパートで。ならさっさと帰れ」
 「つーかさ、そう言うのを『一人暮らし』って言うんじゃねぇの?」
 「人の話を聞けっつーの。帰れよ。」
 「やだ」
 「即答かよ......」
 「だって、俺、イッチに一目惚れしたんだもん。俺もここに住む」
 俺は手に持っていた牛乳パックを床に落としそうになった。
 言うに事欠いて、こんな理由を押しつけられて「そうですか、なら一緒に」なんつーヤツがいたら拝みたいね。ってか、そんなヤツぶっ殺す!
 
 「いいか、よ~~~く聞け。お前は誰だ。なんで俺なんだ。」
 勢いよく丸い小さなテーブルに俺は牛乳パックを置いた。きょとんとした顔で葵は俺を見ている。
 「俺は~、松尾葵でぇ一八歳。んで、なんでイッチかって言うと、一目惚れだから」
 「違うだろ!お前間違ってる!」
 「どこが~?」
 ヤケに間延びした葵の応えが妙に感に触った。何処が、と言われて何処と言えない自分にも腹が立ってきた。だから、違うだろ、それ!
 「なんだよ、一目惚れって。俺に惚れたんかよ」
 「そうだよ。好き」
 「言うなーっ!」
 全身に鳥肌がたった。こんなに鳥肌たったのって「13日の金曜日」を小学生の頃無理矢理姉貴に見せられて以来だった。
 「お前、ホモかよ」
 恐る恐る聞くと、葵はしばらく考える風な面もちを見せ、首を傾げている。どうなんだよ、ってか、男を好きだなんていうヤツはホモ以外ねぇだろ。この場合。
 「違うと思う。だって男を好きになったのってイッチが初めてだし。俺男とセックスしたことないよ」
 そ~か?そういうもんか?そーなんか?
 「じゃ、おい。よ......よく考えろ。これは気のせいだ。お前の勘違いだ。お前は今日初めて俺とあったんだよな?」
 「うん」
 「で、初めて俺と口を聞いたんだ。そうだ、なんだ......ほれ、ひよこみたいなもんで初めて見た奴を親と思うのと一緒で、勘違いってことあるだろ。きっとそれだ」
 「何いってんのか、イッチの言っている意味がわかんねぇ」
 俺だって分かんねぇよ。
 「じゃあ、キスしてよ」
 「なんでだ!てめぇ、調子こくな」
 シルバーに輝く金髪を揺らめかせながら葵は潤んだ瞳で二度瞬きをしたかと思うと、ゆっくりとその顔を近づけてきた。
 白い肌、染めた金髪がなんだか現実を逃避している存在そのものの様な気がしてきて、俺は目を瞑ってしまった。葵のつけているコロンの香りが俺の肌に触れていく。
 柔らかな唇が触れて、そして離れた。
 硬直したかの様に畳にへたり込んだ儘の俺からそっと離れていく葵が男なんんだって自覚するのに数秒かかった。
 「どうだった?」
 思いの外柔らかな髪を掻き上げて葵が俺に聞く。
 「俺に聞いているのか?」
 「キス、嫌じゃなかったでしょ」
 「ばっ......、バカやろう。いきなりキショ悪いことすんなって」
 言葉では悪態ついても、事の成り行きについていけない俺の脳味噌は「キスは男でも女でもかわんねぇじゃん」とか考えてしまっていた。思い切り、うち消す。
 「今度は、ちゃんとしたやつ、しようよ」
 猫の様な目をして葵は笑う。ああ、こいつ何かに似ていると思ったら俺ん家で昔飼っていた猫に似ているんだ。
 綺麗な目をした猫だった。
 「なんだって?」
 思いが他へと逸れていたせいで葵が何か重大な言葉を言ったらしい言葉を聞き逃していた。
 「今度は、ちゃんとしたキス。しようよ、イッチ」
 「ふざけんな。てめえ調子こくな!俺はそんな趣味はねぇんだよ」
 「趣味じゃねぇよ。俺、本気」
 言いながら、葵はバサッと制服のガクランを脱いだ。
 「な......!何脱いでんだよ......」
 「俺、マジなんよ。するときはちゃんとするの」
 白いシャツのボタンにまで指をかけ、アンダーシャツまでもあっという間に脱ぎさってしまった。部屋の中とはいえ、今は12月。俺の部屋はそんなに暖かくなんてない。
 上半身裸になった葵の肌は白く、本当に今まで見た女のどの肌よりも白かった。もしかしてその金髪も自前なんかと思うくらいの日本人離れした色の白さに圧倒されてしまった。
 「お前、さみくねぇの?」
 「へーき」
 へへっと笑いを口元に浮かべてはいるが、その目は欲情でもしているかのように濡れていた。その目を見たとき俺はマジ、ヤバイと感じた。けれどもう遅く、葵に肩を押さえつけられ情けなくとも俺には為す術はなかった。いや、思い切り突き飛ばすという最後の手段があったにはあった筈なのに、俺は出来なかった。
 間近で見れば見るほど葵は綺麗な顔をしていた。
 何時間もその顔を見ていた筈だったのに、今になって初めて葵を一人の葵として見た気がした。
 俺、どうなっちまったんだろう。
 膝を広げたまま両手を畳の縁についたままの俺の中にすっぽりと葵は入って来た。そこでまた、コイツは俺よりも幾分小柄なんだと思う。
 そんな事にいちいち反応している場合じゃないって事くらい充分分かってはいるんだが、どうにも身体が言うことを効かなかった。まだ触れていない皮膚の体温が香ってくるような、痺れた感じだった。
 うっすらと筋肉のついた細い腕を俺の首に回すと薄暗い部屋の中で葵は俺に口づけてきた。
 仄かな、柑橘系の香り。
 これは、さっき葵の飲んだオレンジジュースの香りだと、ぼやけて痺れ始めた情けない自分の頭の中で思い起こしていた。
 葵の舌先が俺の歯列をなぞる。ゆっくりと口を開くと柔らかな葵の舌が挿入されてきた。こいつが男だとか女だとか、考えられなくなっていく俺は、葵の薄い身体に空いている手を回した。
 冷たくなっている細い腰は、俺の指先を感じてヒクリと反応する。
 ああ、たったこれだけの事だっていうのに、俺の身体はうっすらと汗をかいていく。
 深く浅く葵に口中を舐め挙げられ、俺はもう準備万端って感じで、半分やけくその状態だった。細い腰を持ち上げ、葵の身体を自分の身体の上へと乗せる。女にやるのと同じように俺は葵の首筋へと舌を這わせた。それは全くの条件反射というもんだ。
 「イッチ......」
 「バカ、そんな声だすな」
 俺の髪を掻き揚げ、葵が切なそうな声をあげるから、一瞬我に返る。
 「やだ、続けて、イッチ」
 「ん」
 どうにでもなれ、という心境はこういう事態の時にも使われるもんだと自覚する。陽が傾き、俺の部屋は丁度いい感じに薄暗くなり、オンボロのエアコンが微かなうなり声をあげている。
 首筋にキスを繰り返し、そのまま肩先の皮膚の味を堪能した。男にしては柔らかで滑らかな肌。こいつ、本当に男とやった事ねぇのかなと考えるだけの思考力はまだ残っていた。
 「おい、お前、本当に男とやった事ねぇの?」
 「......、いいじゃん、そんなこと」
 「あんのかよ。どおりで慣れてる筈だよな」
 普通の男がこうも抵抗無く、男に身を任せる筈なんかある訳ねぇって。
 「じゃ、聞くけど、この後どうすんのよ」
 「こうすんの」
 そう言い、葵は俺のシャツを脱がせにかかる。それだけに止まらず、すうっと延びてきた白い手は俺の股間を握った。
 咄嗟に、腰を引く俺。ヤバイっていうんよ。
 「イッチ、最後までやる?」
 「やんねぇって」
 「でも、こんなになっている」
 「この年で不感症な訳ねーだろ」
 そう言いながらも、俺の大事な息子をなで上げ、猫の目で上目遣いでさそってきやがる。
 「触んな」
 思わず、葵の手を振りきり、半分だけ脱がされただらしないまんまのシャツを引き寄せた。
 「自分でやんの?」
 くっそー!確かに俺の物ははっきりと形も堅さも絶好調になりつつあった。納める為には一発抜かなきゃなんねぇのは、確かだった。
 若いって、たまんねえよ。
 「イッチは、何にもしなくていいからさ、俺がイッチの右手になってやるよ」
 赤い舌を薄い唇に這わせた葵は、たまんなくエロかった。もう、その口に俺のモンを突っ込んでもいいかなって思い始めてしまった。
 返事をしない俺を、了解と見たのか、それとも俺は生唾を飲み込んだのかもしれなかった。
 とんでもない奴に掴まったかもしんねぇ。
 手際よく葵は俺のジッパーを下げ、なんの躊躇いも無しに口に含んだ。おい、待て!少しは躊躇ったらどうなんだ、と俺は思ったね。
 うあ......!
 纏い付くようなねっとりした葵の舌が粘膜を刺激し始める。俺ってば、口でやるのってそう言えば初めてだった事を思い出す。
 凄く、気持ちよかった。
 それだけは嘘偽り無く言えた。
 そして、あっけなくイッテしまった......。
 情けねぇ~、俺ってば......。
 
 「ん、ぐ......」
 俺の吐き出した精液を喉を鳴らし葵が飲み込んだ。
 「ちょっと、お前。飲んだの?」
 「うん」
 「へ......平気なのか?お前」
 「なんで?」
 「......、なんでもねぇ」
 俺は、飲めないよ、きっと。自分のものは勿論、おめーのだって飲めねぇってば。なんだか凄いことした気がして、途端に焦りを感じ始めてしまった。
 明らかにもう後戻り出来ないって気がしてしょうがなかった。こんな事って、要するにこういうボーダーラインってのはあっけなく自分がそうだと自覚する間もなくやってくるもんなのか。
 「気持ちよかった?イッチ」
 「いや......。良かったも悪かったも、俺も変態の仲間入りですか?」
 確かに、気持ちは良かったのだった。
 「別に、俺、変態じゃないだろ?イッチが好きになったから、イッチの気持ちいいことしてあげたかっただけじゃん。」
 平気な顔してそう言う葵の顔をまじまじと見つめた。
 赤く染まったかのような唇は、濡れていた。俺の体液で濡れているんだと思うとやっぱり嫌悪感は拭い去れない。
 立ち上がった葵は、また冷蔵庫を開け、オレンジジュースのキャップをひねるとそのまま口を付けて一気に飲み干した。
 「それって、どんな味すんの?」
 興味はあったけれど恐くて聞くことが出来なかった。
 空になったペットボトルをトンと狭い台所に置くと、両手で自分の身体を抱き締めるような格好で俺の胸に身体を擦り寄せてくる。もう、よける気力すら残っていなかった。
 「寒いね」
 「服、着ろよ」
 素直にスルスルと脱いだ制服をまた何も無かったかのように着て行く様を見つめながら、自分の後処理を済ませた俺は立ち上がって制服のパンツを脱ぎ、ジーンズに履き替えた。
 なんだか気まずい感じがするのは、俺だけなのか?身支度を済ませた葵はくるりと振り向き、にこりと笑みを作った。
 「男同士でも、なんでもないだろ?感想は?」
 「えっと......」
 言葉に詰まっている俺の髪に葵は手を差し込んできた。ぎょっとしている隙もなく、首筋を引き寄せられてまた口づけされる。
 仄かに苦く甘いオレンジジュース。
 「明日も、来るから」
 「ああ」
 うっかりと、返事を返してしまった。
 
 バタンとドアが閉まり、葵は帰って行った。
 俺は、今言った言葉を取り消そうと急いで玄関のドアを開けて葵を呼び止めようとした。二階にある俺のアパートの階段を景気良く降りていく葵は何を勘違いしたのか、嬉しそうな顔をして俺に向かって手を挙げた。
 「ばかやろー!もう来んな!」
 「聞こえなーい」
 にこやかに笑って去っていく、やはり未だ俺の中では「金髪の男」位の認識しかない葵という奴がまた明日も俺の所にやってくるなんて真っ平だった。
 
 畜生......。
 そう呟いた口の中に、甘くて苦いオレンジジュースの味が広がって行った。
 
 
 END
 





オレンジジュース

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コメント(6)

みぃ :

主人公が攻め視点なの大好きなんで
とってもおもしろかったです^^

日向夏姫 :

みぃさん。コメントありがとうございます。
スッゴク嬉しかったです。
しかも、おもしろかったとのこと!うお~!
スペシャルサンクスです。

また来てくださいね!それでまたコメントくださいね!(催促かよ、アタシ・・・)

作者ワルニャー :

楽しく読ませていただきました!
ありがとうございました。(^^)

日向夏姫 :

作者ワルニャーさん、コメントありがとう!
こちらこそありがとうございました。

と、ところで、受験生・・・、頑張ってくだしゃい。

沙羅 :

すごくすごく面白いですねっ!!
この後どうなるのかすごく楽しみです♪

日向夏姫 :

沙羅さんへ
感想ありがとうございます。
レス。遅くなりすみません。。。
この後、えーと、、、うう、頑張って書いてみます。
また、宜しくお願いいたします。

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